佐賀県多久市教育長 中川 正博 氏

多久市生まれ。1968年、佐賀大学教育学部を卒業して小学校教諭となる。佐城教育事務所長、多久市立中央中校長を経て、2005年より現職。

多久市DATA
【都道府県】佐賀県
【郡】多久市(隣接する自治体:小城市小城町、佐賀市富士町、唐津市厳木町、相知町、小城市牛津町、杵島郡江北町、大町町、西南は武雄市)
【人口/世帯数】20,274名/7,087世帯(平成26年3月時点)
【小中学校数】小中一貫校 3
【児童・生徒数】児童1,005名、生徒574名
【備考】北に天山、西に八幡岳、南に鬼の鼻山、東に両子山と四方を自然豊かな山々に囲まれた盆地で、市内を有明海に注ぐ牛津川が流れる自然豊かな地である。市の教育方針として、国際化、ICT化など、グローバルな動きを見据え、学校、家庭、地域社会のそれぞれが教育的役割を十分に果たすことができる、義務教育9ヶ年の教育環境の整備を進めている。

次世代育成のために“やらねばならないこと”を実現させた一斉取組み

―3校同時に始まった小中一貫教育のねらいとこれまでの経緯をお聞かせください。

中川 多久市では、「自信と誇りを持ち、自ら学び、心豊かにたくましく生き抜く児童生徒の育成」を教育目標に据えています。子どもたちのために必要なことは素早く、一斉に取り組むことが、教育全体の相乗効果を高めるために重要であるとの基本的な考え方から、少子化と21世紀型教育に対応すべく、「学校の施設の統合」、「学級人数のスリム化」、「系統立てた教育環境」の早期実現をめざして、市内全区で小中一貫教育の導入を進めてきました。

教育環境の充実においては、教育の情報化も推進し、平成21年度に市内全域の小中学校、全教室に電子黒板の設置と各種ソフトの整備を行いました。さらに各校1人の専属ICT支援員を配置するとともに、多久市独自の全教員を対象とした教員研修のしくみを活用し、教員のICT活用指導力の一斉向上に取り組むなど、ハード・ソフト両面からICT活用環境を整えてきました。小中一貫教育を充実させるためにも、この準備段階は必須であったと考えています。

タブレット端末を活用した教科学習がもたらす相乗効果に確かな手ごたえ

―小中一貫教育を充実させていく過程で、今回のDIS School Innovation Projectに参加されたねらいと成果は何ですか。

中川 平成21年度に導入した電子黒板の全教室、教科学習での活用により、学力向上に一定の成果を上げてきました。そこで、次にわたしたちがめざしたのは、小中一貫教育を通して、子どもたちの社会の変化に対応できる技術と、他者との多様なかかわりの中で自他への理解を深め、主体的に学びを発展させていくために必要な思考力、判断力、表現力といった、「生き抜く力」を効果的に伸ばすことです。

「生き抜く力」の育成を目標に、本プロジェクトでは、教科学習の中でタブレット型パソコン(以下タブレット端末)を用いた「協働型学習」に挑戦し、その効果を検証するとともに、小中一貫校ならではの教員連携をさらに強化することで、教育効果の最大化を図ることをねらいとしました。

プロジェクト実践においては、小学校、中学校に各40台ずつ導入されたタブレット端末を、すでに活用している電子黒板と組み合わせて協働的な学習活動を行った結果、積極的に自分の考えを声に出して表現する言語活動が活発化しました。また、グループワークの中ではそれぞれの考えを分類し、周りと協力し再構成・関連付けするなど、全体を通して、主体的なコミュニケーション、協働的な思考活動がうながされる様子が観察されました。

また、教員の連携にかかわる成果としては、小・中学校の教員間での情報交換が活発化し、相互にそれぞれのICT活用実態をリアルタイムに把握できるようになったことです。子どもたちの発達段階に応じた活用リテラシーとスキルレベル設定の必要性を実感するとともに、ICT機器の新たな活用方法の提案や使い方の幅が広がるなど、教員のさらなるICT活用指導力の向上という効果にもつながり、今回のプロジェクトへの期待が、確かな手ごたえに変わりました。

実証結果を、さらなるICT環境整備を予算面から支える原動力に

―今後の展望をお聞かせください。

中川 今回は3校の小中一貫校のうち、西渓校1校のみでの検証でしたが、今回の実績と成果を残り2校の一貫校へも共有し、タブレット端末の導入を推進します。保護者や市民全体に対しても広く発信し、理解を得ることで、今後、佐賀県が標榜している“一人一台のICT環境”の早期予算化、それによる学習環境の改善、ひいては子どもたちの「生き抜く力」の育成につながると確信しています。