竹原市教育委員会 教育長 竹下 昌憲 氏

昭和22年竹原市生まれ。中央大学卒業後、東広島市の小学校教諭、竹原市教育委員会指導課長、竹原市の校長を経て、平成24年6月より現職。

竹原市DATA
【都道府県】広島県
【人口/世帯数】27,473名/12,715世帯(平成27年5月末時点)
【小中学校数】 小学校9校、中学校4校 計13校
【児童・生徒数】児童1,173名、生徒592名※平成27年4月8日現在 
【備考】竹原市は古くから瀬戸内の交通の要衝として発展した。室町時代より港町として知られ、江戸時代後期は製塩業で栄えた。現在は 『安芸の小京都』 と呼ばれ、2000年に国土交通省によって、町並地区が「都市景観100選」に選定された。テレビアニメ「たまゆら」やNHK連続テレビ小説「マッサン」の舞台としても知られる。

確かな学力の向上につながるICT活用教育

―竹原市の教育の特徴とICT活用教育の推進についてお聞かせください。

竹下 竹原市では、学校教育ビジョンである「夢をもち 子どもが輝く教育の実現」「未来を拓く 新たな教育への挑戦に向けて」の実現にむけて、「主体的な学びの促進」「ICT活用教育の推進」「生徒指導の充実」「小中一貫教育の推進」「中学校区内の連携の充実」を重要項目と位置づけ、学校教育の推進を行っています。

ICT活用教育の推進については、初期段階(平成24年度、25年度)、中期段階(平成26年度~29年度)、後期段階(平成30年度、31年度)、最終段階(平成32年度以降)とわけ、段階的に実施しています。初期段階は導入期と位置づけ、竹原市内全小学校9校、中学校4校に電子黒板を導入したり、ICT教育研究推進指定校を定め、教員のICT活用能力の向上・充実をはかったりしてきました。現在、中期段階に入っていますが、各学校でICT活用推進リーダー教員を位置づけ、2か月に1度のリーダー研修会の実施や、リーダーによる校内研修会の実施、また、授業で活用できるICT活用ガイドブックの作成を行い、ICT活用教育の全市的な実践に向けた推進を行っています。平成27年9月より、児童・生徒が学習で主体的に活用できるよう、全学校にタブレットPCを整備することも決めました。そのため、ICT支援員を4名配置し、すぐに授業で活用できるよう教員の情報活用能力のさらなる向上に努めています。

学力向上と授業力向上を実現するための授業デザインの重要性

―DIS School Innovation Project に参画された理由と成果は何ですか。

竹下 平成21年度に文部科学省「電子黒板を活用した教育に関する調査研究事業」に参画したことをきっかけに、ICT活用教育の推進が本格的にスタートしました。この事業により、ICTを活用した授業は、児童・生徒の学習への興味・関心を大いに高めるものであることがわかりましたし、子どもたちの反応により、教員のICT活用意欲の向上にもつながりました。この事業は電子黒板の活用が主でしたので、タブレットPCと電子黒板と連携した授業を行うことで得られる効果を検証したいと思い「DIS School Innovation Project」に参画しました。 今回のプロジェクトの成果は、主に以下の2点です。

一つ目は、「学力の向上」です。広島県が実施する「基礎・基本」定着状況調査で、このプロジェクトの実証研究校の得点率が向上するという結果を得ました。ICTがすべての効果であるとは言い切れませんが、大きな要因であるととらえています。ただし、ICTを取り入れたから成果が出たのではなく、活用場面を「授業の導入」「児童・生徒に学習への見通しをもたせる」「思考を可視化する(表現)」「適用問題に取り組ませる」とし、活用目的を意識した授業デザインによるものです。これにより、児童・生徒の学習課題への興味・関心を高め、理解度のみならず、思考力、表現力の向上につながったと考えています。

二つ目は、「教員の授業力の向上」です。活用目的と活用場面を明確にし、わかる授業の創造に向けて教員は何度も授業改善を繰り返しました。これにより教員自身の資質が向上したと考えています。

研修の充実で教員の情報活用能力の向上を

―今後の展望についてお聞かせください。

竹下 School Innovation Project での成果を全市に広げ、すべての教員がICTを効果的に活用した授業を展開できるようにしたいと考えています。とはいえ、教員の情報活用能力には格差があり、また、他市からの人事異動や初任者採用による学校格差が発生することもわかっています。課題の解決に向けて、現在、リーダー研修や校内研修の充実を通して、教員同士が教え合い、支え合えるようにしています。お互いの経験やスキルの共有が、ICT活用以外の学習指導にもよい影響を及ぼし、ひいては竹原市の教育の質の向上につながると考えています。