宮崎県宮崎市教育委員会 教育長 二見 俊一 氏

昭和27年生まれ
昭和53年より県内の中学教諭、旧佐土原町立広瀬中学校校長職を経て、旧東臼杵教育事務所長(現北部教育事務所)、県教育庁学校支援監、教育次長を歴任。平成22年11月より現職。

宮崎市DATA
【都道府県】宮崎県
【群】宮崎市(隣接する自治体:新富町、西都市、国富町、綾町、都城市、三股町、日南市)
【人口/世帯数】402,494名/176,983世帯(平成26年8月1日時点)
【小中学校数】小学校48、中学校25
【児童・生徒数】児童22,407名、生徒10,358名
【備考】宮崎市は県のほぼ中央にある都市で、同県の県庁所在地である。平成10年4月1日に中核市に移行され、平成18年1月1日に田野町 ・佐土原町 ・高岡町と、平成22年3月に清武町と合併し 、新しい宮崎市となる。

いま必要なのは、時代の変化に対応した教育の実践

―中核都市である宮崎市の教育の現状や課題についてお聞かせください。

二見 教育委員会の役割は、人・モノ・予算・情報を効果的にマネジメントして、次世代育成を実現することだと考えています。「子どもたち一人一人が個性を大切にしながら自分の将来の夢の実現に向かってしっかりと進んでいける子」、「人の気持ちを理解でき、共感できる感性をもてる子」、そんな「みやざきっ子」の育成を支えるのが教員の授業力です。ICTの活用は、そんな授業力向上を支えるツールの一つだと考えています。

ただ、一人一台タブレットなどのICT機器環境を市内73校全校に整えるには、8億円以上の大きな予算が必要となります。さらには約2,500人の教員への理解や活用推進のための研修は必須であり、実現のためのハードルの高さは、中核都市のスケールデメリットといえるかもしれません。

しかし、「不易流行」という、変えてはならないものと、時代に応じて変化しなければならないものがあると思います。このことを教育におきかえてみれば、新しいテーマや新しいツールを教育に取り入れ、時代にあわせて授業を変化させることが、新しい時代を生きる子どもたちに今必要とされることであり、ICT教育推進はその一つといえるでしょう。

ICT活用を通して、教育効果の好循環を実感

―今回のDIS School Innovation Projectに参加されたねらいと成果は何ですか。

二見 本市では、平成12年度から情報教育の推進に着手しました。平成22年には市内全校の普通教室に大型テレビと実物投影機を設置し、学習導入時の提示教材などの工夫により、児童生徒の学習への興味・関心喚起することで学力向上を図り、一定の成果をあげてきました。

そして、学力向上には、何よりも学習意欲が重要との認識をあらたにしたところです。

今回のプロジェクトでは、教育の情報化と小中一貫で取り組んできた「学力向上」を融合、加速させることをねらいに、ICT活用の可能性を次の3点に設定しました。

一つ目は、「個に応じた指導を充実させること」です。少人数指導を行う加配教員の配置など、指導形態の工夫とともに指導方法の工夫として、児童生徒の多様な学習要求に対応するためのICT活用です。二つ目は、「児童生徒の学ぶ意欲を高めること」です。ICTの活用は児童生徒の積極性や学習意欲を高めることはこれまでの経験でわかっていましたので、そのような授業の実現に向けて、すべての教員にICTを活用した指導力を向上させること。そして三つ目は、「思考力・判断力・表現力の育成を図ること」です。これには言語活動の充実が欠かせません。話し合い活動において、自分の考えを持つこと、お互いの考えを比較検討すること、その中で考えを再構築することなどの活動を実現するための“ツール"としてのICT活用の可能性を探ることでした。

課題提示や課題把握がわかりやすくなることで、学習意欲は高まります。また、静止画や動画などの映像によるふりかえりは、何度も見なおしたりしながら思考し、課題や解決策を導き判断する活動につながり、その判断に基づいて次の行動を起こすという表現力の育成へとつながります。さらには主体的にコミュニケーションを図ろうとする姿勢も見られました。このように、ICT活用がキャリア教育の視点からのスキル育成にも大きく関わっていることが確認できたことは大きな成果でした。

教員の授業力向上へのモチベーションを高める取組を積極的に展開

―ICT活用の可能性を検証してきた上で、今後の展望についてお聞かせください。

二見 一つ一つの授業にはねらいがあり、そのために教員は知恵を絞り、経験を活かすという授業力が不可欠です。ベテラン教員の、個人の豊かな経験や高いスキルの指導力を、ICTを活用して組織力、学校力へつなげていきたいと考えています。

市内全校へのICT機器の環境整備には少し時間を要しますが、今後必要とされるツールの一つですので、教育委員会としてできることに着実に取り組んでいきたいと考えています。その環境が整うまでの準備として着手すべきことがあります。授業力向上のためにICT活用によって、“何ができるのか"そして“何をしたいのか"を、すべての教員が実感をもって理解するためのさまざまな取組を積極的に展開することが、「将来を担う“ひとづくり"」の実現につながると確信しています。