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“いつでも・だれでも・どこでも”使えるICT整備を目指す。東京都墨田区ICT導入事例【後編】

2016年04月25日 記事

2014年度から「学校ICT化推進事業」の計画を本格始動した東京都墨田区。“いつでも・だれでも・どこでも”をICT活用のコンセプトに掲げる墨田区では、教員の授業改善を目指してICTを生かす。一方で、墨田区は同計画が本格始動する5年も前から、管理職向けのICT研修を定期的に実施し、現場でICTを推進できる人材育成にも注力してきた。後編では、そんな墨田区が力を注ぐ教員向けICT研修に着目する。

話を聞いたのは、墨田区教育委員会 庶務課教育情報担当の渡部昭氏だ。

墨田区教育委員会 庶務課教育情報担当 渡部 昭 氏
墨田区教育委員会 庶務課教育情報担当 渡部 昭 氏

ICTの環境整備の前に、管理職の研修を!

 墨田区では2014年度から「学校ICT化推進事業」を本格実施し、区内のモデル校5校(小学校3校・中学校2校)に対して、電子黒板機能付きプロジェクターや実物投影機、40台のタブレットPCを整備した。加えて、モデル校の教員全員に対してもiPad Airを1人1台環境で配備し、いつでも、だれでも、どこでも活用できるICT環境の整備を目指す。同区では、このような整備を2016年までに、区内の全小中学校で導入することを目指している。

 

 一方で墨田区は、学校ICT化推進事業を本格始動した2014年の3年前、2011年から区内の全小中学校の校長・副校長・主幹教諭などに対して教育現場におけるICT活用のマネジメント研修を始めている。タブレットや電子黒板などのICT機器を導入する前に、現場でICT化を推進する管理職の人材育成が重要だと判断した。墨田区では2011年以来、定期的に管理職や主幹教諭、ICTリーダーにICTに特化したマネジメント研修を実施している。

 ICT環境の整備よりも先に、管理職クラスの研修を優先した理由はなにか。墨田区教育委員会 庶務課教育情報担当の渡部昭氏は、「学校現場でICTを広げていくためには、管理職がどのようなビジョンを持っているかが重要だからだ」と話している。

何のためにICTを導入するのか、伸ばしたい児童生徒の資質・能力は何か、どのような将来像を描いているのかなど、管理職のビジョンが長期的な取り組みを左右する。渡部氏は「管理職がその気にならないと学校での活用が浸透しないと思っている。だからこそ、限られた予算の中でも研修はずっと継続してきた」と語る。

管理職が受講する「ICTマネジメント研修」とは?

 墨田区が、管理職に対して実施している「ICTマネジメント研修」は、もともと2003年に英国でスタートした教員向けICTリーダーシップ研修プログラム「Strategic Leadership of ICT(SLICT)」の日本版を取り入れたものだ。同プログラムの日本版(※)は、日本教育工学協会(JAET)が文部科学省の委託を受け日本語化やカリキュラムの開発を行っており、2008年より実運用を開始している。

墨田区では、この研修を区内の小中学校の校長・副校長・主幹教諭・ICTリーダーに対して、定期的に実施している。

※Strategic Leadership of ICT(SLICT)の日本版

日本語版の正式名称は「学校におけるICT活用のための管理職研修プログラム」(JSLICT)

 

 墨田区が実施するSLICTをベースにしたICTマネジメント研修は、3つのステップに大別される。1つ目のステップは、教育現場におけるICT活用の目的確認と他の教育機関でのICT活用事例を講義形式で学ぶ。2つ目のステップは、自校のICT化に関して現状をチェックリストで確認する。3つ目のステップとして、チェックリストの内容をもとに、グループで課題と解決策、行動計画について意見交換をする。もちろん、グループで話し合う際もICTを積極的に活用する。渡部氏はこの研修の効果について、“整備が整っていないからICT化ができない”という受け身な発想から、“今あるものを使って、何ができるかを考えてみよう”という気付きを管理職に与えてくれることに価値があると話している。

 

 墨田区では、ほかにも様々なICT関連の研修を実施している(下記写真参照)。2015年度からは、インテル株式会社が提供する教員研修プログラム「21世紀型スキル育成研修会」(Intel® Teach Program)も試行した。6月に管理職対象の21世紀型スキルのガイダンスの研修を実施し、夏休み期間中に区内の各小中学校から教員1名が2日間の研修を受講する。渡部氏は「学校の教員は、今までこのような研修を受ける機会がなかったが、ICTを活用するにあたり、社会で求められる能力や、世界の潮流、時代観などを知り、どのような授業が求められているかを見直すことが重要だと考えている」と語る。

教員向けICTの研修、上手く進めるポイントとは?

 ICT導入に取り組む多くの学校が、校内研修をどのように設けるのか、ICTが不得手な教員に使ってもらうにはどうすればいいかなど課題を抱える。ICT活用において教員研修に以前から取り組んできた墨田区の場合はどうか。

渡部氏はまず、「校長だけでなく、副校長・主幹教諭などトップのビジョンを共有できる立場にある教員も一緒に研修に参加することを重要視した」と語る。

学校でICT化を推進するためには、トップがビジョンを持つことが大切だが、それを支える教員もビジョンが共有できていることが大切だ。

「教育委員会主導でICTの活用を進めるのではなく、学校主体で各学校の文化や特色に合わせたICTの活用を実現してほしい。そのためには、ビジョンを共有できる教員の存在が欠かせない」(渡部氏)

 一方で、各学校におけるICT校内研修はどうか。墨田区では、各学校にICTリーダーと呼ばれる教員を設けて、学校主体で研修を開いている。渡部氏は良い事例として、20~30分の自由参加型の研修が有効だと話す。また学校によっては、教員同士がグループに分かれ、互いに面倒を見合うシステムで進める学校もあるという。この場合、面倒をみる教員は必ずしもICTに長けた人とは限らず、互いに教え合って学ぶことを重要視している。いずれにしても、各学校の状況に応じた校内研修を実施している。

 

墨田区では、各学校のICTリーダーが定期的に集まる研修も設けて、情報共有の場を提供している。渡部氏は今後の課題として、「各学校の中でICT活用に関する議論をもっと活発化させていくための仕組みを考えていきたい」と話しており、教育現場でICTを広げる段階から、より質の高いICT活用に向けて教員の意識を転換させたい考えだ。

 

 墨田区が、管理職や他の教員の研修に重要性を感じてICT化を進める根底には、ICTが児童生徒の発想や思考を高めるツールであるからこそ、それらをサポートする側の力量が問われると考えているからであろう。モノを入れるだけのICTに終わらないためには、教員自身がICTとは何かを本質的に向き合える場が必要であるといえる。

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