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脱・コンピュータ教室は、徹底した現場主義から ~第一電子株式会社~

2016年04月04日 記事

 

文教市場の変貌と考慮すべき要素の複雑化

 米Microsoft社の共同創業者で、現技術担当アドバイザーのビル・ゲイツ氏が、1990年代を通じてトレードショーのキーノートスピーチなどで盛んに採り上げたテーマに、"Information at your fingertips"(指先で操る情報)というものがあった。

 

 次世代の情報環境を指すこのフレーズは、キーボードによるコマンド打ち込みや、マウスあるいはトラックパッドでポインタを動かして情報を扱うのではなく、「情報そのものに直接触れているような感覚でさまざまな作業が行える環境が実現する」というビジョンを意味していた。

 

スマートフォンやタブレットデバイスが普及した今、これはもはやビジョンなどではなく、現実の、且つ日常的な情報の在り方そのものになっている。特に、生まれた時から電子機器に囲まれて育ったデジタルネイティブ世代にとっては、それが当たり前の世界であり、教育現場にも否応なくその波が押し寄せている状態だ。

 

これに伴って、教育委員会などが行う機材の選定にもモバイルデバイスへとシフトする流れが強まり、結果的にさまざまな提案を行う必要のある業者の動き方にも大きな変化が起こっている。

 

そこで、ここでは創業から60年の歴史と兵庫エリアに強いネットワークを持ち、先ごろ、担当区域内の教育委員会が管轄する40数校の小学校に1700台規模のタブレットPCを納品した第一電子株式会社 MA・官公庁統括事業部販売2グループの林 義友氏に、時代の変化にさらされる文教マーケットの現状と、機材を販売する側としてどのような対応をされているのかを伺った。

第一電子株式会社は、事務機器の販売がビジネスの中心であり、林氏は、主に教育委員会や教育機関、一部役所などを担当している。

文教市場では、学校の備品や図書館の蔵書管理システムを納品することもあるとのことだ。

第一電子株式会社 MA・官公庁統括事業部販売2グループ 林 義友氏
第一電子株式会社 MA・官公庁統括事業部販売2グループ 林 義友氏

「今の文教関連のキーワードは、やはり『モビリティ』です。行政の直接の担当者の方々もITには明るいのですが、実際の導入にあたってはいろいろなハードルがあります」

それらは、各自治体が制定しているセキュリティポリシーであったり、児童数減少に伴う税収と予算のバランスであったり、先方の担当者の異動に伴う案件継続性の維持などを指している。さらに文科省が、2020年には1人1台のコンピュータ(もしくは、それに準じる電子機器)環境を実現するという目標を打ち出しており、現場はそれに対応することも求められる。

林氏のグループは、こうした問題を迂回することなく、教育委員会の担当者らと相談しながら1つずつ解決策を見出すことで乗り越えてきた。

モバイル化の背後にある基礎学力向上ニーズ

 では、なぜ今教育の現場で「モビリティ」が注目されるのだろうか? そこには、基礎学力を養うという初等教育本来の目的が関係している。

 

ひと口に基礎学力といっても、今は昔と違って学習すべき内容が質・量ともに変化し、学校における授業だけでは時間が不足したり、対応が不十分になる面も出てきた。そこで、家庭学習の重要度が上がっており、中でも注目されるのが「反転授業」という学びの方法だ。

 

これまでの授業では、自宅で教科書などを使って予習し、学校でその内容を改めて教師が説明して質問などに答え、再び自宅で復習や宿題を行うというやり方が一般的だった。これに対して反転授業では、生徒は自宅で予習代わりにビデオ授業を視聴する一方、学校での講義は行わずに、生徒間での討議や、宿題に相当する課題に児童・生徒同士の協働作業で取り組むことが主体となる。

 

これはスマートフォンやタブレットデバイスの普及が進んだことで可能になったわけだが、実際には世帯間のデジタルデバイド(情報機器やリテラシーの格差)のために、機材を学校側で調達したり、操作の補助員をつける必要も出てくる。

 

そこで、大学の教育学部と連携して実験授業の形態で予算や人員を確保したり、出版社との協業でビデオコンテンツを充実させるといった工夫や、クラウドサービスの導入によってコンテンツ管理や配信に伴う金銭的、あるいは人的な負担を軽減する提案なども行われている。

 

こうしたことを的確にこなすには、担当地域の特性に精通して機材選定が行え、ハードやソフトのメーカーとの太いチャンネルを駆使して座組みができ、トップダウンになりがちな大きな案件に対して現場の声を反映できる説得力や信頼性を持つプレイヤーが不可欠だ。

 

「本来の仕事とは違うかもしれませんが、私は施設の設計を担当する建築事務所の方と一緒に、図面の確認までさせていただくようになりました」

 というのは、校内に大規模なワイヤレスネットワーク環境を構築したり、既存のネット環境をそのまま耐震校舎に移設するという作業も発生してくるためである。

 

「そうすると、ここをこうしておかないと、後でネットワークの配線が通せないというようなことを指摘できたりします。それによって、再工事などの無駄を未然に防ぐことができ、結果として予算を抑えたり、後々の作業効率が違ってくるわけです」

 普段の仕事に加えてそのようなところまで気を配っていくと、必然的に土・日も返上して現場に付き合うことも多くなる。そして、クライアントの愚痴にも耳を傾ける。そうした積み重ねが、クライアントからの信頼や検討すべき課題の発見にもつながっているのだ。

 

 林氏が力を入れている取り組みの1つに、クライアントの担当者に対するロードマップ整備の推奨が挙げられる。つまり、今後の技術動向などもにらみながら、複数年に渡る機材・環境整備の計画を立てられるようアドバイスを行うのである。

 特に地方では自治体の人員が不足気味で、年々、機器の管理が問題化しているという。モバイルデバイスになれば尚更であり、だからこそ計画的な導入と管理方法が求められる。一方、ロードマップができれば、1年あたりの予算では不足するとしても数年分で補完したり、先に着手する案件での導入機材が後のプロジェクトとの連携でさらに活きてくるような構成を考えることも可能となる。

 

第一電子株式会社の担当者は、長ければ1つの顧客を10年近く担当する場合もあるのに対し、顧客側の当事者は2、3年で異動することも珍しくない。したがって、プロジェクトのロードマップ化によって限られた予算を最大限に活用できる環境を整えることは、案件の連続性を維持するうえでも非常に重要なアプローチといえる。

 

 また、機材を導入する側は、納品後に検収して予定通りの運用が始まった時点で安心してしまいがちだが、その後に発生するメンテナンス費用などの資産運営管理費については疎いケースも多い。そういう点にも配慮したコンサルティングができなくては、責任ある機材選定や納品は不可能であろう。

 

冒頭で触れた大規模なタブレットPCの導入も、児童がコンピュータのある部屋に移動して授業を行う旧来のコンピュータ教室方式からの脱却を図るため、数年前から立案していたもので、それがここにきて実を結んだ。

 

具体的には、管轄内40数校の小学校すべてにおいて、1クラス40人の児童が同時に機器を利用できるように1680台(=42×40)のレノボ社製タブレット「ThinkPad 10」と、1校あたり2台を教師用として84台(=42×2)のコンバーチブルタイプの「ThinkPad Yoga」を納品し、同時にLAN配線のレイアウト変更と無線LANのアクセスポイントも整備した。

ThinkPad 10
ThinkPad 10

児童用の「ThinkPad 10」は、次の3つの理由から選定された。

1)6〜12才の児童が直感的に操作できること(タブレット単体での利用時)

2)コンピュータ教室外での利用に際して、持ち歩きが容易なタブレット単体にて利用可能で、その際にプロテクタのような丈夫な保護オプションが装備でき、安全性を確保できること(コンピュータ教室外での利用ではキーボード操作は原則不要と判断。2in1、コンバーチブルではプロテクタに類する保護オプションの用意が困難かつ重くなり小学校児童向けとは離れていくと判断)

3)従来どおりのコンピュータ教室での授業でも利用が必須のため、ドックやフルサイズキーボードとマウスが利用できること

ThinkPad Yoga
ThinkPad Yoga

先生用(教師機)の「ThinkPad Yoga」については、児童用機と違って教材編集の作業を多く伴うので 2in1、コンバーチブルの候補から、2in1のような分離機能は優先順位が低く、またThinkPad Yoga のタブレットモードでも重量的には(教師が扱うには問題ない程度に)軽いうえに、スペック的に高い構成が可能で、同時導入の50インチの電子黒板等周辺機器の利用にもメリットがあると判断された。

変形機構についてもヒンジが2箇所装備してある点が1点式のスイベル方式よりも耐久性に優れているのではないかとの判断もあった。

 更新前のコンピュータ教室にはノートPCとデスクトップPCが半々の割合で導入されていたが、サイズの関係で机の上が狭く危ない状態だったため、教育委員会からの要望はコンパクトでありながら、フルサイズのキーボードとマウスを使わせたいとのことだった。さらに、教室から持ち出して使う場合に破損する危険性もあるので、堅牢性も外せなかった。

幸い、ThinkPad 10はドッキングステーション経由でキーボードとマウスが使え、純正の頑丈なカバーもあったので、これらの条件をクリアできた。この他にも導入済みの800台のデジタルテレビを情報教育以外の教科でも利用できるようにするために「書画カメラ」を導入する一方、普通教室向けとしてスピーカ一体型の短焦点プロジェクタを用意し、どこでも50インチサイズの画面投影が可能な環境を整えている。

ドッキングステーション装着時
ドッキングステーション装着時

 

ノートサイズのキーボード利用は年齢幅の広い小学校の児童では不向きではないか、との認識があるようで、外付けのフルサイズキーボード、マウスが接続できるドッキングステーションが採用された。故障時等のメンテナンス性も2in1、コンバーチブルと比較して良いのではないかとの判断もあったようだ。

単なる販売ではなくハブとして機能する営業へ

 これまで、法人や教育機関に対してモノを納品している業者は、ひとくくりに販売会社を略して「販社」と呼ばれることが多かった。そして、実際にもその役割は、特定分野の専門家であるクライアントが求める製品を良い条件で販売し、納めることにあった。だが、こと現在の文教市場においては、クライアント側に、彼ら自身が必要とするすべての情報や知識、そしてノウハウがあるとは限らず、ICTの進歩とともに、この傾向は今後ますます強まっていくものと予想される。

 

そのため、単に導入コストを抑えることに長けていたり、大量の機材でも納期に間に合うように納品できるというだけの販社では、この市場で競争力を維持していくことは非常に難しい局面を迎えていると言わざるをえない。

 

これからの販社と営業担当者には、普段から情報収集に努めてクライアントのニーズの先を予想し、意識されていない要素を顕在化させることが最低限求められる。そして、そこに留まらず、案件に影響する様々な組織やメーカー、専門家の調整役として機能しながらプロジェクトの着地点を見据える、ヒト・モノ・カネのハブ的な役割を果たしていく必要がある。これは、従来の発注元と受注者という関係に甘んじていては、なしえない方向性だ。

 

 2020年に実現するとされる1人1台のコンピュータ環境は、現在の集団授業から個の情報化に移行することを意味している。そのような環境で、これまで通りの教育のあり方が成り立つのか? その問いに対しても、単なる情報の受け売りではなく、実証ベースで考え、その日に備えるというのが、林氏のスタンスだ。

 

「これまでの販社は、仕事を探すことが主体でした。しかし今後は、仕事を作ることに移行していくでしょう。技術の発達に伴って相談を受ける機会も増えますし、クライアントにとっての良き相談相手となりたいですね」

 

その意味で、現場主義を貫く中から積極的に自らの役割をシフトしてきた林氏と第一電子株式会社は、文教市場の明日を先取りする存在なのである。

 

(取材・文/大谷和利)

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