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School Innovation セミナー in 大阪レポート(後編)~これからの学校教育に必要なICTとは?~

2016年03月29日 記事

授業におけるICTの活用や、それに伴う環境整備。関心は高まっているものの、まだまだ実際の取り組みに至っていない自治体や教育機関は多い。今後、ICTの環境整備や活用を進めて行く中で、成功のポイントはなにか?2月2日に開催された「School Innovation セミナー in 大阪」(日本教育情報化振興会主催)のイベントから、後編ではパネルディスカッションの模様をレポートする。

小学校のICT活用。カリキュラムの位置づけが今後の課題。

“アクティブ・ラーニング”と呼ばれる学びを受けた子供たちは、本当に社会で通用する能力を身につけているのだろうか。「School Innovation セミナー in 大阪」では、“ICT活用×アクティブ・ラーニング〜子供が主体的に学ぶ授業とその普及ポイント〜”と題したパネルディスカッションが設けられた。小中学校のICT活用の事例やその普及、発展において民間企業の立場からも意見を聞く。

パネルディスカッションのメンバー
コーディネーター 豊田 充崇 氏(和歌山大学 教授)

パネリスト    矢出 大介 氏(和歌山大学教育学部附属小学校 教諭)
           反田 任 氏(同志社中学校 教諭)
                           若江 眞紀 氏(株式会社キャリアリンク 代表取締役)

 

        株式会社キャリアリンク 代表取締役  若江 眞紀 氏
        株式会社キャリアリンク 代表取締役  若江 眞紀 氏

まずは、今の社会で求められている能力について、キャリア教育などをメインに教育コーディネーターとして活躍する株式会社キャリアリンク 代表取締役の若江 眞紀 氏の話を紹介しよう。

若江氏は日本経団連が発表した「企業が選考時において重要視した能力」、「21世紀型スキル」、「社会人基礎力」の3つの資料を提示し、「産業界も、各業界によって求める能力は細かく言えば異なるものの、企業の多くは学校に対して、学び方を学ばせてほしいと考えている」と語る。変化の激しい今の時代、必要な知識はどんどん変わっていく。新しいことも次から次へと創出される世の中になり、人は学びながら働かなければならない。そうした時代においては、ITリテラシーの有無は、採用時に大きな差となり得ると若江氏は指摘する。「日本のある企業では、2000人の新入社員のうち、1500人は外国人を採用している。日本人は語学とITリテラシーの能力が劣っているため外国人を採用せざるを得ない企業が増えてきている」(若江氏)というのだ。

小学校のICT活用: 課題はカリキュラムにおけるICTの位置づけ

では、実際に小学校ではどのようにICTを活用して、ITリテラシーを育成しているのか。和歌山大学教育学部附属小学校の事例を紹介しょう。同校の矢出大介教諭は、日常的にICTが活用できる環境を重要視し、普段の授業でも情報収集、共有、編集、蓄積などの用途で積極的に使う。

和歌山大学教育学部附属小学校 教諭     矢出 大介 氏
和歌山大学教育学部附属小学校 教諭     矢出 大介 氏

 

タブレットを用いた学習の効果として矢出教諭は、「手軽に調べられる」「自分の考えをわかりやすく相手に伝えることができる」「使うこと自体でICTの有効な活用を身につけることができる」「学んだ内容を共有しやすい」などの好意的な意見が多いと述べた。一方で課題点としては「何気なくICTを活用するのではなく、カリキュラムや単元の中でICTを位置づけることが重要だ」と語る。ICT活用の継続性、発展性などを考慮し、きっちりとカリキュラムの中に組み込むことで長期的な取り組みへとつなげることが大切だ。学校全体として体系的に情報活用能力を育成していくためにも、カリキュラムにおける位置づけが欠かせない。

 

 

 

若江氏は、情報リテラシーをK-12の間に体系的に学べる環境が重要だと指摘した。「小学校でICTを活用していた子供たちが、中学に行ってふりだしに戻ることがないよう、継続、発展した学びができる環境で学ぶこと大切だ」と語る。コーディネーターの和歌山大学 教授 豊田 充崇 氏も「ICTを使う先生のクラスで1年間学んだ後、次年度のクラスでは全く触らないという状況もあり得る。学校としてITリテラシーを育成するカリキュラムを作ることが重要だ」と語った。

中学校の事例:コラボレーションが生まれやすい授業デザイン

同志社中学校 教諭 反田 任 氏
同志社中学校 教諭 反田 任 氏


続いては、中学校におけるICT活用の事例として、同志社中学校の取り組みを紹介しよう。同校ではiPad miniを一人1台体制で導入しており、主体的な学習を促すツールとして活用している。英語科の反田任教諭は、4技能が問われるこれからの英語教育にはアクティブ・ラーニングを取り入れることが欠かせないと話し、積極的に実践を行う。「日本人は英語が喋れず苦手意識を持つ人が多いが、英語学習にコラボレーションなどのアクティブ・ラーニングの要素が入っていけば、発信型の英語学習に変化する」と反田教諭は語る。


実践事例として反田教諭は、Skypeを用いたオンライン英会話の授業を紹介した。教室内で6人のネイティブ・スピーカーの講師らとつながり、生徒はグループに分かれて講師の出身国を当てる課題に挑戦する。グループ単位で取り組むことで生徒の英語の発話回数を増やすことが目的だが、時間制限や禁止ワードなどゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、グループ内で知恵を絞り、協力しやすい環境を作った。反田教諭は「生徒たちが互いにアイデアを出しあったり、自然にコラボレーションが生まれるデザインを考えている。どのように学ぶのかを重要視しており、Teach less, Learn moreを心がけている」と語る。

若江氏は、学習項目として達成したい目標も重要ではあるが、生徒に身につけさせたい能力や学ぶことの目的がはっきりとした学習に取り組むことが大切だと話す。海外ではそのような授業が多く実践され、目的達成に対して思考・判断・行動・検証のプロセスが生まれるという。コーディネーターの豊田氏は、シンガポールのICT先進校の事例も取り上げ、「リテラシーを育む授業がはっきりとした形で設けられている」と指摘。正解のない問題に見通しを持って取り組む学習などが、小学校から行われているうえ、プレゼン資料の作り方、効果的に見せる色の配色など基礎的なITリテラシーを学ぶ授業もあると説明した。
 

学校教育では、リテラシーをコンピテンシーに変えることが重要

若江氏は、学校教育ではそれぞれの発達段階で、「情報リテラシーなど、さまざまリテラシーをコンピテンシーに変えることが重要だ」と指摘した。ここで言う“コンピテンシー”とは、単なる知識の活用ではなく、自分の経験を基にソリューションを示すことができる行動を指す。若江氏の言葉でいうなら、“学んだ知識が、経験に基づいた知恵になっている”状態だ。 学校教育でICT活用が広がっているのは良い傾向であるが、社会が求めているのはイノベーションを起こせる人材。グローバル社会が求めている人材と、学校教育で育成された人材にはまだまだギャップがあると指摘した。

ICTの導入は確かにここ数年で広がりを見せている。ICTを使って学んでいく子供たちが未来の社会でその能力を発揮し、新たな価値の創造を生み出す知恵にまで昇華させるには、現場の学校,教員,児童生徒の日々の学びのあり方にかかっていると言えるだろう。

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