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先生のやる気がなによりも強み! 〜熊本県高森町 教育委員会 ICT推進事業の取組み【後編】〜

2016年03月14日 記事

熊本県高森町は、人口減少が進む地方の小さな町。同町では、平成24年度から教育ICT化推進事業を実施し、教員の授業改善や児童生徒の学力向上に成果を上げたとともに、教師・学校・行政が一体となって取り組みを進める理想的なモデルを築いている。高森町はどのように教育ICT化の施策を進めたのか。後編では、熊本県高森町教育委員会 佐藤増夫教育長と同委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏に教員研修会やICTの効果について話を聞く。

左:高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏  右:高森町教育委員会 佐藤増夫教育長
左:高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏  右:高森町教育委員会 佐藤増夫教育長

教員全員が参加する研修会を定期的に実施

平成24年度から「高森町新教育プラン」を本格実施した高森町は、同年に町内の全小中学校の普通教室すべてに電子黒板や指導者用デジタル教科書を配備し、ICT化のスタートを切った。当初から、段階的にIT機器を導入したのでは、使う学級とそうでない学級ができてしまいICT化が結果として進まないと判断した高森町は、初年度に教員全員が使えるICT環境を整備した。この設備投資は、最初から教員全員が一丸となってICTに取り組む共通意識を築くきっかけになった。

 

一方で、モノだけを入れても、教師が変わらなければICT化は進まない。そのため高森町では、全教職員約80名が一同に集まる教員研修会を定期的に実施し、現在も続けている。審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏は、「テレビ会議などを使えば教員全員が集まらなくても研修会ができるが、教員にやる気を持ってもらうためには、実際に会って話をする機会が大切だと考えている」と語る。

 

研修会は、授業力の向上が目的だ。例えば、若い教員がICTを使った模擬授業を行い、他の教員がアドバイスや意見を出し合う。このような形であれば、ICTに前向きな教員もそうでない教員も入りやすい。堺氏は「“ICTは苦手で私にはわからないから…”と一線を引いてしまわないように、教員全員が意見を言いやすい環境づくりに配慮している」と語る。

佐藤教育長は、研修会を通して教育委員会が目指すビジョンを現場の教員と共有することが重要だと語る。確かに、ICT化を進めるうえで、教員の意識改革はもっとも苦労した点であると話す。しかし、ICTを活用した授業で子どもたちの変わった姿を見れば、教員は積極的に取り組むようになる。そこから教員がどのような授業をしたいのか、ICTをきっかけにして互いの夢を語れる状況をつくれたことが教員のやる気向上につながったと分析する。

 

そのような空気感をつくるためには、教員同士が集まってビジョンを共有することが欠かせない。「高森町の強みは、先生。先生のやる気はどこにも負けない」と佐藤教育長は自負する。実際に、高森町に勤務する教員は、自身の授業力やICT活用指導力の向上など、キャリアアップも図れることから、留任希望が多いという。高森町では教員の資質向上を推し進める観点から、日本全国の優れた教育実践を学ぶことを目的に県外への出張研修も積極的に実施するなど、教員のやる気を支援する体制も整え、行政と教員が一体となってICT化の取り組みを進める。

英語学習、遠隔学習など、タブレット端末のメリットを大いに活かす

高森町の小中学校におけるICT活用は、電子黒板やタブレット端末のメリットをうまく活かしていることが特徴だ。一斉授業、個別学習、協働学習などの様々な学習シーンにおいて、課題提示、情報共有、個人思考といった明確な目的のもとにICTを活用している。英語ではALT(外国語指導助手)が発音する動画コンテンツを視聴しながら個別学習を行うなど、地方の教育機関が抱えるALT不足の課題解決にもICTを活かす。

 

新しい取り組みとしては平成27年度から、文科省の「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」による遠隔学習も実践している。高森町の山間部では、人口減少が進む小中学校の教育の維持・質の向上が長年の課題であった。その課題解決として、テレビ会議システムを利用した町内の小学校間、中学校間の連携を進めている。例えば小学校では通常の授業以外にも、昼休みにこども同士が遠隔システムを通じて自由に交流したり、JAXAのような専門機関とも遠隔授業を進める。高森町では子どもの興味・関心を高めるような外部機関との連携を今後も積極的に取り組んでいくという。

高森町の教育ICT化の取り組み、3年間の成果とは?

高森町の教育ICT化の取り組みは、どのような成果を上げているのか。平成23年に6年生だった児童が、中学3年生で受けた学力調査の結果(※下記写真)を紹介しよう。調査の対象になったこの学年は、6年生の時はICT導入前であったが、中3の時点ではすでに電子黒板やタブレット端末が導入されたあとで、約3年弱の利用実績がある。この資料をみると、高森町ではICTの導入後、児童生徒の学力において国語、算数ともに知識活用力を図るB問題の成績が向上したと言える。

同じ児童生徒の小6(平成23年)、中3(平成26年)の全国学力・学習状況調査の結果を比較したもの。
同じ児童生徒の小6(平成23年)、中3(平成26年)の全国学力・学習状況調査の結果を比較したもの。

なかでも、算数・数学の図形領域については、A問題(知識力を図る問題)、B問題の両方で目立った成績向上が見られた。イメージや思考の可視化がしやすいデジタルのメリットを授業で効果的に取り入れた成果だといえる。ほかには、グループ活動の実施が全国や熊本県レベルで比較しても突出して高いことがわかった(※写真下)。高森町では、どの教員も取り組みやすいようにグループで行う課題解決型学習をモデル化するなど、授業研究も進んでいる。

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佐藤教育長は、ICT導入から3年の取り組みを振り返って「一番の変化は、授業が改善したことだ。ICTを授業の中でどのように活かし、授業をどう構成するか教員が真剣に取り組んできた。その結果、学力や21世紀型スキルが伸びてきたと考えている」と語る。ICTを導入したから成果が出たのではない。ICT導入をきっかけに教員が変わったことが成功の要因だというのだ。

 

高森町教育委員会は今後、小中学校や地域の連携をさらに増やし、家庭学習においてもICT活用を積極的に進めるという。日本の地方には高森町のように、教育に課題を抱える小さな自治体は多くある。地域・行政・教員のつながりを活かした高森町の取り組みが、他の地域のロールモデルになるか。今後はその広がり方にも注目したい。

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