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先生のやる気がなによりも強み! 〜熊本県高森町 教育委員会 ICT推進事業の取組み【前編】〜

2016年03月14日 記事

熊本県高森町は、人口減少が進む地方の小さな町。同町では、平成24年度から教育ICT化推進事業を実施し、教員の授業改善や児童生徒の学力向上に成果を上げたとともに、教師・学校・行政が一体となって取り組みを進める理想的なモデルを築いている。高森町はどのように教育ICT化の施策を進めたのか。前編では、熊本県高森町教育委員会 佐藤増夫教育長と同委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏に、これまでの経緯や施策について尋ねた。

山間部と中心部、教育格差の課題解決をICTで目指す

熊本県高森町は、阿蘇山の麓にある小さな町だ。県の最東端に位置し、世界最大級ともいわれるカルデラのダイナミックな自然に恵まれる。地理的に、町の真ん中にはカルデラの中と外を二分する峠が連なり、それを境に町は山間部と中心部に分かれる。

 

町の住民が多く住む中心部と過疎化が進む山間部。町はこの2つの地域における教育格差を課題としていた。山間部は人口減少による統廃合が進み、現在は、中学校1校(全14名)、小学校1校(全32名)。中心部と山間部の学校を統合するにも、距離が20km以上も離れており通学も難しい。高森町教育委員会の佐藤増夫教育長は、「山間部と中心部の小中学校を町としてどのように維持して、教育の質の向上を図るかが課題だった。その課題解決の手段としてICTが活かせないかと考えていた」と当時を振り返る。

佐藤教育長がICTの導入が課題解決につながると考えた背景には、平成23年に選ばれた新しい高森町長が町全体のICT化に着手したことがある。当時、高森町は人の行き来に制約があり、コミュニケーションが限定的になるなど課題を抱えていた。それに対し、新町長は全家庭に光回線を整備して、町の情報共有や農業のICT化に着手。佐藤教育長は「町の将来を担う次世代を育成するためには、教育への投資も欠かせない」と提言し、教育ICT化も町の重点施策に位置づけた。ちょうど新町長が選ばれた平成23年は、文科省が教育の情報化ビジョンを発表した年でもあり、佐藤教育長の考えをあと押しした。こうして高森町では、町内の小学校2校、中学校2校に対して、平成24年度から教育ICT化推進事業を本格的にスタートさせた。

熊本県高森町教育委員会 佐藤増夫教育長
熊本県高森町教育委員会 佐藤増夫教育長

国の施策や制度を活かした「高森町新教育プラン」とは?

高森町は、平成24年度に“高森に誇りを持ち、夢を抱き、元気の出る教育”をスローガンにした「高森新教育プラン」をスタートした。新教育プランでは、①コミュニティ・スクールの導入、②小中一貫教育の導入、③ふるさと教育の推進、④教育環境の整備の4つの事業を展開し、ICT化は教育環境の整備の1つとして進められている。

 

コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、文科省の委託事業として平成24年度から継続的に取り組む。小中一貫教育においても、教育課程特例校の制度を利用して取り組み、英語教育やふるさと教育などに力を注ぐ。佐藤教育長は、「教育も地方分権の流れを受け、国の事業や制度を活用して地方が積極的に特色を出せる時代になった。高森では、こうした国の委託事業や制度を町の新教育プランにも取り入れていることが特徴だ」と語る。

 

高森町では、これら4つの事業を遂行するために平成26年度から教育CIOを設置した。小さな町がさまざまな教育事業に関するICT化を進めていくためには、国の教育動向、学校現場、授業のことなど、教育全般について幅広い知識や経験を持つ人材が行政に関わり、組織の強化を図ることが重要だと考えたのだ。そして初代の教育CIOには佐藤教育長が兼任、当時、高森中学校教頭だった堺昭博氏が教育CIO補佐官に着任した。堺氏は補佐官の役割について「予算を抑えたい行政サイドと、授業改善のためには質の良い機器や製品を使いたい教師サイド、2つの要望に対して折り合いを付けるのが自分の役目。先生や子どもの視点に立って、教育現場にいたからこそできる助言や提言を行うことが重要だと考えている」と語る。

熊本県高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏
熊本県高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 堺昭博氏

初年度に一気に設備投資を実施。高森町が進めた教育ICT整備とは?

新教育プランをスタートした高森町は、初年度に町内の全小中学校の普通教室すべてに電子黒板を導入した。この判断が、のちに教員の意識改革や教員研修会に大きな影響をもたらす。「電子黒板が入る学級とそうでない学級があれば、ICT化は進まない。やるなら一気に全員が取り組める環境を整備することが重要だ」と町長が判断したことで、高森町は初年度に大きな設備投資を実施した。ほかには、指導者用デジタル教科書、校務支援システム、教務支援システムなども初年度に整備している。2年目には町内の全小中学校の特別教室全てにも電子黒板を完備した。

タブレット端末の導入は平成25年度からのスタートになった。新教育プランの初年度に電子黒板を整備したあと、フューチャースクール推進事業の流れを受けてタブレット活用を模索していた高森町は、ダイワボウ情報システムが実施した『DIS School Innovation Project』に応募する。その実証研究で一定の成果が得られたことから、平成26年度に町の予算でタブレットPCを導入した。現在は、2年間で整備した395台の端末が稼働している

 

同年度からは、熊本県教育委員会から支給された学校CMSを導入し、各学校のホームページも開設した。小さな町が進める教育ICT化ではあるが、町の4校に対するホームページのアクセス数は、2年半弱で60万PVにも登る。また、国内からのアクセスだけでなく、台湾や韓国の教育関係者が高森町の小中学校のホームページを閲覧し、視察に訪れることもあるというのだ。佐藤教育長は、「多くの視察が来ることが、子どもたちや先生のプライドにもなっている。初期の設備投資は確かに大きかったが、確実に成果を上げていると考えている」と語る。

人口減少、過疎化、予算などの高森町と同じ課題を抱える地方の小さな町は全国にも多くある。高森町が教育ICT化に思い切った設備投資と施策が実行できたのは、なにか特別な環境があったわけではない。施策の方向性やその進め方、人材育成など教育現場と行政が密接に関わり合いながら模索を続けたことが大きい。後編では、高森町が実施する教員研修会、ICT活用の成果についてレポートする。

(取材・文/神谷加代)

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