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袖ヶ浦高校・情報コミュニケーション科、公立高校がBYODを実施した理由【前編】

2017年03月27日 記事

教育機関におけるタブレット導入やBYODの事例は増えてきたが、タブレットが出始めた当初は、まだ同様の取り組みを実施する学校などゼロに等しかった。そんな中、他の教育機関に先駆けてBYODを実施したのが、千葉県立袖ヶ浦高等学校・情報コミュニケーション科だ。同校はなぜ公立高校でありながらBYODに踏み切ったのか。iPadを導入した経緯はなにか。学科長である教諭・永野直氏に話を聞きながら、同校の取り組みを改めて振り返る。

日常的にICTを活用できる学びの場こそ必要

千葉県立袖ヶ浦高等学校・情報コミュニケーション科(以下、袖ヶ浦高校)は2011年に新設された学科で、初年度からiPadによるBYODを実施している。同学科を設置するにあたり学科長として着任したのが永野直氏だ。どのような学科を目指すのか、カリキュラムはどうするのかなど、全体の構想や方向性、具体的な学習内容を一から練り上げていったという。

 

一般的に公立高校で“情報”の専門学科といえば、就職に直結するような情報スキルを学ぶ学科だと思われがちだ。しかし、これだけテクノロジーが進化し、社会や生活においてもITが普及した今、仕事で必要な人だけが学ぶ特別な知識ではなくなった。時代の変化とともに、公教育においても21世紀型スキルやキー・コンピテンシーの育成が求められるようになり、今までとは違う新しい情報教育の場が必要になった。永野氏は「情報端末を学習や学校生活など日常的に活用することで、コミュニケーション能力や課題解決能力など未来を生き抜くために必要なスキルの育成を目指す学科が必要だと思いました」と同学科設立の想いを語った。

千葉県立袖ヶ浦高等学校 情報コミュニケーション科 永野 直 氏
千葉県立袖ヶ浦高等学校 情報コミュニケーション科 永野 直 氏

このような学びの場を実現するにあたり、永野氏がもっとも重要視したのは“つながり”だ。教室の中で生徒が黙って教師の話を聞くのではなく、生徒自身が社会や他者とつながり、さまざまな課題に直面しながら、互いに協力し合って課題を解決する。そんな環境に生徒が身を置くことで、「自分の価値や役割を見つけてほしい」と永野氏は語る。社会との接点が増え始める高校生にとって、他者とのつながりこそが生徒たちに多くの気づきを与えるからだ。永野氏は「生徒が学校の中で多様なつながりを持つためには、1人1台の情報端末は欠かせないと思ったのです」とBYOD導入の経緯を語る。

ネットブックが主流の時代に、個人所有のiPad導入を決意

とはいえ、永野氏がBYODの構想を描いたのは2010年頃、ちょうど情報コミュニケーション科が正式にスタートした前の年になる。当時はまだ、初代iPadが発売されたばかりで、ネットブックが主流だった時代。公立の高校の生徒に5万円以上もするタブレットを個人負担で購入してもらうのは抵抗があるだろうという意見もあがったという。

 

しかし永野氏は、情報コミュニケーション科における新しい学びには、“個人所有のタブレット端末”が必要だとして、2011年に発売されたiPad 2を導入し、1人1台体制に踏み切った。これについて永野氏は「我々の生活や社会が変わってきた背景にはモバイルデバイスの普及が大きく影響していると考えています。学校においてもモバイルデバイスを活用することに価値があり、生徒がいつでもどこでも自分のコンピュータを自由に使える環境があれば、これまでの授業スタイルを大きく変えていけるのではないかと思ったのです」と語った。

 

機種選定にはネットブックも候補にあがったが、学校には2つのコンピュータ教室が整備されているため選択肢から外した。PCの活用ももちろん必要だが、それよりも永野氏が問題視したことは、生徒の多くがすでにスマートフォンや携帯電話を所持していたにもかかわらず、娯楽的な使い方しか知らなかったことだ。「生徒たちにはPCやモバイルデバイスなど情報端末のさまざまな活用を知ってもらい、自分の可能性を広げる手段に活かせることを学んでほしかった」、永野氏はそんな思いも込めてiPadを選択したのだ。

 

iPadを導入するにあたり永野氏は、学校貸与ではなく個人購入にもこだわった。

 

「生徒たちは自分の端末だからこそ使いこなそうと思うのではないかと考えました。学校貸与であれば、いずれ端末は返却せねばならず、データも削除しなければなりません。このような前提条件では生徒の使うモチベーションが変わってくると思ったのです」

 

当時はタブレットの個人購入自体が珍しい取り組みであったため、周辺の中学校へ説明に行くなど周囲の理解を得ながら進めていったという。

iPadを自分で購入して、自分でセットアップ

袖ヶ浦高校はBYODの端末として、初年度は生徒全員がWi-FiモデルのiPad 2を選択した。それから6年、現在はセルラーモデルのiPadを選択する生徒がいたり、それぞれ異なるスペックのiPadを所持するなど、生徒によって使用する機種は違う。ただし、9.7インチのサイズを選ぶことと、破損防止用に保護カバーを付けることは決めているという。

実際に生徒が使っているiPad。カバーやペンなども自由に自分で選ぶことができる。

ちなみに、袖ヶ浦高校で珍しいのは、iPadのセットアップを生徒自身が行っていることだ。他の教育機関では、学校が端末をまとめて購入し、専門業者にセットアップを依頼することが多いが、同校の場合は、学校が用意したマニュアルに沿って生徒が行う。具体的には、生徒たちは入学前に各自でiPadを購入し、春休み中に端末のセットアップを済ませておくというのだ。

 

これについて永野氏は「Apple IDの取得やGmailの新規作成など、サービスアカウントを登録したりパスワードを管理したりするスキルは、情報端末を活用するうえで非常に重要になってきます。パスワードが覚えられない生徒も多くいますが、こうした経験を通して失敗しながら学ぶことが大切だと考えています」と語る。

 

授業だけでなく、生徒の身の回りで起こることの全てを学びの機会だと捉えてつなげていく。

袖ヶ浦高校では生徒がiPadを購入する時から、既にその問いかけが始まっている。同校の3年間で生徒はいったいなにを学ぶのか。

中編では、袖ヶ浦高校の授業におけるiPad活用について詳しくみていこう。

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