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School Innovation セミナー in 宮崎レポート【中編】〜全国有数の先進事例にみる情報教育環境の体制づくりの秘訣

2017年02月17日 記事

今、実社会で起きつつあることは、テクノロジーの飛躍的進化によってもたらされた第4次ともいわれる産業革命。既存の産業構造の大変革が不可避となる一方で、新たな産業モデルも誕生をはじめ、高度な知的労働社会を生き抜くための変化が世界規模で求められている。その只中を生きていくことになる子どもたちの未来に対し、これからの教育はどうあるべきなのか。1月7日に開催された「School Innovation セミナー in 宮崎」(日本教育情報化振興会主催)では、九州の先進事例に見るICT活用と情報教育環境をテーマに、「主体的に、協働的に、深める、学習プロセスをデザインするICT活用」が議論された(中編)。

教育の情報化に関する調査・研究開発とその成果の普及推進活動および提言・提案活動を行う日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は1月7日、3回目を数える「School Innovation セミナー」を宮崎県で開催した。ポイントは、アクティブ・ラーニングとICT活用における先進事例紹介が5件、市教委の取り組みが2件とまさに実践に即したセッションが用意されていたことだ。中編では九州先進事例および宮崎県内の事例をレポートする。

熊本県高森町_町の教育ビジョンを実現するために

 九州先進事例のトップバッターは、学校情報化においてこれまでにも数々の受賞歴を誇る熊本県高森町だ。コーディネータ役を務めた山本朋弘氏(鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター 講師)は冒頭、「町の教育ビジョンをどう実現していくのか、ICTはそのツールの1つである。町をあげての教育ビジョンをどう実現してきたかを紹介いただきながら、宮崎県内の教育の情報化を普及、浸透させたい」と、自身も熊本出身で情報化にあたっても関わりの深い高森町を紹介した

山本 朋弘氏(鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター 講師)
山本 朋弘氏(鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター 講師)

高森町の教育ビジョン概要を説明するのは同町教育CIOである佐藤増夫氏(熊本県高森町教育委員会 教育長)だ。教育長は、市町の教育CIOとして、教育CIO補佐官と連携しながら学校CIO(校長先生)の学校経営、教室での授業を支援していく重要な役割を担うことは、文科省のホームページ「教育委員会と学校が連携した教育の情報化の推進体制」にも指し示されているが、同町は全国に先駆けて町ぐるみで教育に力を入れてきた地域である(詳細は高森町 教育委員会 ICT推進事業の取組み【前編】高森町 教育委員会 ICT推進事業の取組み【後編】)。

「教育ビジョンを実現するにあたり、重要なのは3つの戦略で、ここにこだわってこの5年間、進めてまいりました。1つは町をあげて、ということです」(佐藤氏)

※向かって左:佐藤 増夫氏(熊本県高森町教育委員会 教育長)、向かって右:堺 昭博氏(熊本県高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官)
※向かって左:佐藤 増夫氏(熊本県高森町教育委員会 教育長)、向かって右:堺 昭博氏(熊本県高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官)

ヒト、モノ、カネのマネージメントというのは教育委員会だけではできない。そのためには地域の首長や行政、議会からの支援が必要不可欠となる。つまりは町をあげて教育を進めていけるかどうかが大きい。ちなみに高森町では、「高森町新教育プラン」を掲げたあとに町議会選挙があり、多くの候補者が選挙公約にその推進を盛り込んでいただけた」と佐藤氏は振り返る。

2番目は「風に乗る」だ。特にICT活用に関しては産学官の連携が大事であり、その意味では文科省をはじめ、県の教育委員会、大学、そして企業体との連携が教育トレンドを掴むため、取り入れるためには重要である。そして3番目は「国や県の動向を見据える」だ。当たり前ではあるが、この動向を見誤って間違った方向へ行ってはいけない。

  

これら3つの戦略を軸に出来上がったのが「高森町新教育プラン」なのだが、ここには4つの狙いのほか、重点施策が盛り込まれてはいるものの、「ICT」というキーワードは一切出てこない。なぜか?

「教育長になった平成23年7月より4カ月ほど前に、教育の情報化ビジョンおよび普通教室のICT環境整備のステップの原型になるものが、また7月には地域とともにある学校教育が文科省から大きく打ち出され、この2つに限りませんが、それらをどう町の教育施策に盛り込んでいくのかが新教育プランの意図でした。だからこそ、4つのねらいの1つに、行政と連携した『教育環境の整備』の推進を盛り込んだわけです」(佐藤氏)

 

行政との連携、そして教育環境の整備はなにもICTだけを指し示すわけではなく、小中一貫教育などさまざまな環境整備が含まれる。この狙いには、町をあげて(巻き込む)意図が垣間見られる。しかしながらそれだけではなく、国や県の動向に沿い、また地域特性を考慮した際にやはり肝となるのは「現場力」。先生方が変わらなければ教育は変わらないという視点に立ち、教職員の資質を高める「教育研究会の活性化」がねらいの1つに挙げられているが、「この各種部会がしっかり機能していると感じている」(佐藤氏)からこそ、数々の表彰・受賞につながり、現場の自身にもつながっているのだろう。

 

さて、高森町の教育ビジョン実現にあたっての共通の具体的取り組み「研究主題」について、堺昭博氏(熊本県高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官)から紹介があった。研究主題は4つの視点に分かれており、実際の授業風景ムービーを用いながらどこでICTが活用されているのか、またその取り組みの成果はどうだったかなどが紹介された。

[たかもり学習の実際]

研究主題の中核になる「たかもり学習」は、21世紀にふさわしいICT環境を活かした課題解決型学習過程のモデル化である。

[事例1 英語学習での日常的活用]

町には1名の英語教員ALT(Assistant Language Teacher:外国語指導助手)しかいないため、毎週授業のはじめに帯の時間をつくり、ICTを活用して発音の練習をするほか、2校を結んで授業が行われている。

[事例3 専門家から学ぶ遠隔授業]

これは中学校での事例紹介。

阿蘇火山博物館と遠隔でタブレット同士を結んだり、複数の専門家と同時につないだ同時テレビ会議などが行われている。

 

山本氏からの「教育の情報化にあたって進めてこられたこの5年の歩みの中で、特に初期の段階ではどんな取り組みをされていたのでしょうか」との質問に対し堺氏は、「まずはすべての教室に電子黒板の設置から始まっています。これも町長の一声で、学校全体を前に進めるには、例えば2教室に1台とかですと、使う先生と使わない先生が出てきしまうことも予想できますので、全教室に設置していただきました。当初は、まずは使ってみようから始まったのですが、やがて『授業改善に向けてどう使うのか』という先生方の視点が変わってきました。いまでは、つけっぱなしではなくて、板書と電子黒板をどう組み合わせるのかに移っていき、そこにタブレット端末が加わって現在の授業スタイルになってきました」と振り返った。

 

山本氏は最後のまとめで以下のスライドを指し示し、「先進的な地域の特徴は、いきなりタブレット端末を整備するのではなく、段階的に、そして電子黒板やプロジェクタ等の提示装置の常設化を図っていることが挙げられます。そして小さな町、村だからできるのではなく、共通点は教育長や校長のリーダーシップのもと、地域全体での推進が必要で、学力向上を最終ゴールとして常に意識し、授業研究・改善に向けたICTの活用をどう学校現場で取り組んでいるのかが大切になります」と締めくくった。

教育の質を高めていく努力は今後も続いていく。

佐賀県武雄市_官民一体型学校での教育改革

 九州先進事例、続いては佐賀県武雄市である。佐賀県でも特に教育の充実化を図ろうとしている先進的な市ともいえるが、事例登壇した武内小学校は、なかでも平成28年パナソニック教育財団の助成採択校(一般)であり、コーディネーター役を務めた新地辰朗氏(宮崎大学大学院教育学研究科 教授)は同校の取り組みを「助成採択の理由でもありますが、個で学ぶ力と集団で学ぶ力、それをつなげていく教育活動を充実させていく教育方針が同校にはあり、それを高めるために必要な教師力があり、その延長線上にこれから紹介いただく学習指導の研究があります」と紹介した。

登壇はそのリーダーシップを執る同校校長 竹内智道氏。武内小学校は平成26年から官民一体型学校として、塾の「花まる学習会」のノウハウを取り入れながら、学校の教育活動を行っている。武雄市では現在、「楽しく学ぶ。みんなで学ぶ。」スローガンの教育ビジョンのもと、子どもたちの個と集団とで学ぶ力を最大限に伸ばしていくために、市内5校が同様の取り組みを行っている。その実現を下支えするものとして、教育に最適な環境提供を学校や地域がバックアップをしていくビジョンを武雄市は有している。

竹内 智道氏(佐賀県武雄市立武内小学校 校長)
竹内 智道氏(佐賀県武雄市立武内小学校 校長)

このビジョンを受けて武内小学校が現在取り組んでいる研究テーマは「協働的問題解決能力の向上」。具体的には個と集団の力をつなげる「友だちタイムの充実」を図っている。友だちタイムとは、話し合いをして問題を解決する時間で、どの教科授業にも取り入れられているが、「充実」を図るには限りある授業時間配分と質が肝要となる。そのために同校では、武雄式反転授業でコンテンツがある算数と理科で研究を行っている。いわゆる持ち帰り学習だ。

 

またその授業づくりにおいては、「思考プロセスの見える化と思考の往還の目的でICTを利活用するだけではなく、つなげる役割としての教師の働きかけが相まったときに、個と集団とで学ぶ力を最大限に伸ばしていけるのではないか」(竹内氏)というのが研究の骨子となる。

※同校では個の力の向上として、集中、共感、思考、対話の力をつけるための取り組みも行っている(左)。スマイル学習採用後の授業の流れは図(右)のとおり。ひとり学習が持ち帰りになった分、授業ではグループ学習の時間が増え、質を向上させる意図だ。

 

さて、その取り組みからわかってきたことは以下の3点だと竹内氏は話す。

 

①スマイル学習(武雄式反転授業)は、協働的問題解決学習をするうえで有効な指導方法

②思考の往還をさせるためには、課題を解決し全体で共有した考えのなかから適当なものを教師が選び、再度切り返しの発問とともに課題を再配付すると学習内容のより深い学びへとつながる

③子どもたちの考えをさらに深めるために、意図的な課題の再配付(思考の往還)をする際には、タブレットは、大変便利

 

ちなみに、後述となったが、武内小学校は現在129名(6学年6クラス)の児童数、ICT機器環境は平成26年より1人1台のタブレット端末があり、28年からは5、6年生用として10インチのWindows 10タブレットに更新されたほか、電子黒板等も全クラス配備されている。また、ハードウェア機器のみならず、ソフト面でも充実しており、ひとり学習、授業学習両面で教育を下支えしている。このあたりは花まる学習会のノウハウが活かされているのだろう。

特筆すべきは、ハード・ソフトを充実させ学習環境を向上させるだけではなく、スマイル学習用のコンテンツ(スマイル動画)を教員自らが作成していることだ。そして、「その動画を単に観てきたかを教員が確認するのではなく、(反転学習用のツールを駆使して)児童がはたしてどれくらいしっかり学んできたのか、内容を理解してどんな疑問を持ったのかを、授業前に把握し、それを生かして児童に働きかけるからこそ成果が現れているのだろう」と新地氏は評価する。

 

下に紹介するムービーはその一例で、武内小学校では今後、現在共有している市内教職員で作成した動画に加え、学校独自に作成した動画を各学校間で共有していくことを今後の取り組み課題に挙げている。また、これには教員の負担も大きいと思われるわけだが、武雄市には自主的かつ任意参加で授業課題研究を行う勉強会がいくつか開かれており、「教職員が学ぶ教育文化がある地域なんだろう」と新地氏は締めくくった。

スマイル動画

宮崎県日向市_産学官連携によるチャレンジ

最後の九州先進事例は、宮崎県日向市財光寺小学校である。同校における教育の情報化においてきっかけとなったのは、2012年に公募があった産学官連携による普通教室でのICT活用推進実証研究「DIS School Innovation Project」の採択校に選ばれたことであった(宮崎県では2校)。当時教育委員会に在籍していた三樹和幸氏が現在財光寺小学校の校長となり、DIS School Innovation Projectで得た研究ノウハウも活かした現在の取り組みに関して発表を行った。

※宮崎県日向市財光寺小学校 校長 三樹 和幸氏。DIS School Innovation Project当時は市教委在籍で、プロジェクトにより深めた研究成果を、2年前から赴任となった財光寺小学校でさらに発展させるべく奮闘している。

同校は、学校教育の根幹に「キャリア教育」を据えている。学ぶ意味、働く意義を地域の大人から、あるいは日々の学習活動のなかから学び問い直している。その1つが、全学年で行っているストーリー性のある取り組み。今年その取組が文科省の表彰対象にもなっている。そして「キャリア教育の取り組みを広げてくれたのが、ICT活用です」と三樹氏は話す。

※ICTを活用したキャリア教育の1つが写真の取り組み。どれも単にICTやリアルを通して社会体験をするのではなく、社会体験を活かして子どもたちに学びや学び方を伝えようとしているので、その経験がやがて子どもたち自身の取り組みに返っていくことになる

ICT活用の2つ目は授業変革を起こせるデジタル教科書の導入である。しかしこれには苦労もあった。先生方に、新しいものに挑戦する気持ちをどう抱いてもらうのか、だ。

 

「ICTに限らず、指導法を見直す契機がせっかくあるのなら、その可能性をいま試さずして、いつチャレンジを示せるのでしょうか? とアプローチをしました」

 

学校現場のみならず、多くの仕事は先輩から後輩へと経験が引き継がれる。しかし、新しいもの、特にICT活用ではむしろ若い世代からその浸透は始まる。変わろうとするとき、学校というチームがどう一丸となれるかはリーダーである校長の手腕といえる。

 

また、デジタル教科書の導入によってこれまで当たり前と思われていた世界のリアルが把握できることにもなった。例えば児童がいま教科書のどこを見ているのかなど、これまでの一方通行が可視化され、全体が本当の意味で確認できるようになった。また、校務支援ソフトの活用によって、これまで見えていなかった業務の細分化、情報共有にも取り組んでいる。

 

「赴任当初、在籍の先生たちとの出会いを感動ストーリーというムービーをつくって演出しました。これによって先生たちとの距離が近くなったと思います。そして前述のようなICTの活用により、学校が変わっているんだということを、今度は保護者にも伝えていくことが校長のリーダーシップだと考えました」(三樹氏)

 

その1つがPTA総会。330名ほどの保護者がいるにもかからわず、赴任後初めての会では70名ほどの参加者しか集まらなかったが、開くにあたり「1回限りの感動ストーリーの上映を行いますよ」と呼びかけていた。上映の話題は1回目に参加した保護者から他にも広がり、2回目では200名を超える参加になったそうだ。子どもたちの変化を通じて学校が変わっている様子を保護者に実感してもらうことは、授業デザインに対する認知となり、教師陣のやる気にもつながる。このループは学校現場のモチベーションにつながっていく。

 

一方で、ICTを使うことが目的ではない以上、「先生が何を軸に指導を行っていけばいいのかという指導方針の明確化も重要だ」と三樹氏は話す。同校の方針は「確実なインプットとアウトプット、そして協働的な学習を必ず成立させておきなさい」の3つである。この方針を示したうえでどうICT活用をすればいいのかを意識してもらっているそうだ。

 

また、情報を管理したうえで学校経営をしているとも話す。

「厳しい話になるが、先生たちの指導力をレーダーチャートに表し、昨年に比べてどうなのかの評価面談を行うことにしました」(三樹氏)

 

仮説はこうだ。先生にはそれぞれにいいところも悪いところも含めた癖がある。例えば、この先生が教えると思考・表現の能力がいつも落ちてしまう、一方で知識・理解はいつも高まるなど。そこにメスを入れる(レーダーチャート化する)ことで、教師自身が授業変革を起こさなければまた同じことになるのではないかと気づかせている。

実証校としての役割

さて、学校改革において校長がやらなければいけないことはほかにもある。特に財光寺小学校は地域の先進校。自分たちの取り組みと成果を広く伝え、もっと先を行く事例を視察し、またそれを地域に還元していく必要があると三樹氏はその役割を示す。また、ICTの素晴らしいところだけを喧伝することが先進校の役目ではないとも話す。

 

「モデル校に必要な責務は、ICTの悪いところ、使いにくいところを含め、ノーといえる学校でないとダメであると思います。それにはICTに先生が近づいていくのではなく、ICTが先生に近づいてくる観点を持つことが重要」(三樹氏)

同校の取り組みの発表後、会場からこんな質問があった。

 

「冒頭に紹介のあったキャリア教育におけるストーリー性のある取り組みですが、この非常にユニークな発想は教師集団のなかから出てきたのか、あるいは校長のリードから出てきたのか。もし前者ならそういう前向きな集団をどう育てたのか? 後者ならチャレンジの浸透をどう図っていったのですか?」

 

すると三樹氏はズバリこう答えた。

 

「校長のリーダーシップはもちろん大事だと思いますが、一番重要なのは翻訳者だと思います。つまり、私の思いを誰が翻訳してくれるのか、そしてイメージを膨らませてミドル層に、あるいはセカンドやその他教職員にどう伝えていってくれるのか。校長ひとりではなかなか難しいと思います」

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