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困難を強みに変える大熊町の小学校教育【後編】

2017年03月30日 記事

校内の無線LAN化で、何が変わるか?

 福島県双葉郡大熊町には熊町小学校、大野小学校の2つの町立小学校があるが、現在は福島第一原発の事故による全町避難で、100km以上離れた会津若松市の廃校になった校舎を仮校舎として学校運営を行っている。さまざまな困難があるなか、DIS School Innovation Projectを通じて実感した困難を“強み”に変える大熊町教育委員会がどんなICT活用環境を整えていったのか。

全教室に最高水準のLAN環境を用意

 大熊町立熊町(くままち)小学校と大野小学校の2校は、福島第一原発の事故による避難指示を受け、直線距離で100km以上もある会津若松市河東町に仮移転している。統廃合で廃校となった会津若松市立河東第三小学校の校舎を借りている。そのような環境の中で、ダイワボウ情報システム(DIS)が公募した「DIS School Innovation Project」に参画し、2013年、児童1人1台のタブレットPC「CM1」や教育用ソフトウェアなどを無償支援され、ICT教育を進めた。タブレットの中には、各教科のデジタル教科書が入っていて、ほかにはコラボノートfor Schoolを使い、今でも教室内での協働学習に使っている。

 

さて、両小学校のICT環境で目立つのは、各教室に1台ずつ設置された無線LANアクセスポイントだ。これに使われているのはシスコシステムズ製である。一般には、シスコの製品は通信の確実性がきわめて高いため、IT企業のオフィスや大規模小売チェーン店など、大量のアクセスやトラフィックに耐えうる環境で使われる。もちろん、家庭用アクセスポイント製品と比べて、質も高いが価格も高い。授業の中では、児童全員が動画をストリーミング再生するようなこともあるが、遅延や切断などは起きたことがないそうだ。なぜこのような高品質の環境を整えたのだろうか。

大熊町立熊町小学校、大野小学校の仮校舎には「Cisco Aironet 1600シリーズ」が全15個設置されている。

「School Innovation Projectで、DISさんから提供されたアクセスポイントがシスコ製品(Cisco Aironet 1140シリーズ)でした。それを使ってみて、快適さが実感できたので、どうせ全教室に導入するならできるだけいい環境にしてあげたいと思ったのです」(大熊町教育委員会、鈴木恵一指導主事)

 

ICTの授業をするのではなく、普通の授業で便利な道具として使うことを目的にICTを導入した大熊町。そのため、教師がどのような授業を展開しても、ストレスなく使いたいときに使える環境構築を重要視し、機器選定を行ったそうだ。

 

実証研究を通じて、ICT活用のあるべき姿を明確に持ち、それを実現する環境として、高速かつ安定した通信環境を提供するシスコ製アクセスポイントを選定したのは、必然であろう。

実際に、授業の中で児童全員が動画のストリーミング再生を行っても遅延や切断などのトラブルは発生していないという。

 

 

普通であれば予算面で課題が生じるはずだが、教育に力を入れる大熊町では、大きな問題にならなかったと鈴木氏は話す。

予算面だけでなく、実証研究の中でのシスコ製アクセスポイントの安定性と故障率の低さも牽引し、そのまま採用につながったのであろう。

「かなりの高額大きな予算だったとなったにもかかわらず、町長さんや町議会からの反対もなく、すんなりと予算が通ったと町教育庁からうかがったときは、さすが大熊町、と思いましたね」

大熊町教育委員会、鈴木恵一指導主事。『大熊町学校再生への挑戦』では、東日本大震災のあと、鈴木氏のみならず学校復活に向けて奮闘した人々、そして会津若松市での校舎間借りからやがて同地域住民とのつながりへと発展した心の絆が鈴木氏の文章で寄せてられている。

苦労をするからこそ、ほんとうの授業になる

 1人1台のタブレット、全教室に無線LAN環境と、万全の体制が整ったものの、それを使いこなすまではある程度の試行錯誤があった。

 

「たとえば社会の授業に使う地図や写真を、見栄えよくタブレットの中に入れるという教材づくりには苦労していた時期もありましたね」

 

面白いことに、大熊町立の両小学校には、デジタルツール面のサポートをするICT支援員がいない。原則としてツール、ネットワークの管理は現場の教員たちが行っているのだ。ICT機器の納入業者が週1度訪問し、メンテンナンスや教師たちの疑問に答えてくれているが、それだけのサポートで教員たちは自力で使い方を学び、運用し、授業で活用している。過度の負担になってはいないのだろうか。

 

 実はここに大熊町の大きな特色がある。それはチームティーチング(複数担任制)が実現できていることだ。現在、熊町小学校と大野小学校の生徒数は合わせて36名。1学年平均6人、1学校1学年3人という計算になる。この人数だと、文部科学省が定める標準法では1学年1クラスではなく、複数年生の生徒が同じ学級になる複式学級にしなければならない。実際、両学校とも、1、2年生、3、4年生、5、6年生の3クラス編成になっている。複式学級は、同時に異なる単元を同時並行しなければならないため、授業の質を上げるのが難しい面がある。

 

そこで両学校では、合同授業を一部取り入れている。両校の1、2年学級が合同で授業を行い、1年生だけ、2年生だけに分かれ、それぞれの教師が1学年ずつを担当する。こうすることで、複式学級の難しさを解消し、なおかつ少人数学級であるがゆえに個別指導がしやすいという利点を活かしている。

 

「さらに、福島県にお願いをして、教師を多く配置してもらう加配を行ってもらっています。また、大熊町独自の予算で教員を雇用し、1学級複数担任を実現しています。単元によって、3人体制で授業に臨むこともあります」

 

これは偶然だが、若い教員が多い。約30名の教師がいて、40代、50代がそれぞれ5名程度で、約20名は30代以下であり、ICTに強い教師も多い。しかし、担任と副担任という体制ではなく、完全なチームティーチングだという。

 

「どちらが担任、どちらが副担任というのではチームティーチングはうまくいきません。2人の教師が同じ地位で、クラスに対して同じ責任感をもって、はじめて機能するのです」

 

2人の担任は、一緒になって年間授業計画、毎時間の授業構成を練り上げていく。児童間の人間関係、生活指導なども一緒に相談しながら進めていく。

 

「もちろん、教師も人間ですから得手不得手があります。特にICT機器の扱いについては、そういうのが得意な先生が主に見るという役割分担は、各学級で適宜していると思います」

 

鈴木指導主事は、ICTツールという“教材”を自分たちで管理し、自分たちで活用法を考えていくことに意味があると言う。

 

「授業に必要なものは苦労をしてでも、自分でつくる。そうしないとほんとうの授業にはなりません」

教室にはホワイトボードと一体になったエプソン製プロジェクタ、同ビジネスインクジェットプリンタ、富士通製のタブレットPCと収納ラックが設置されていて、当然ながらこれらへの接続はすべて無線LANでつながっている。

“弱み”を“強み”に転化するICT環境

 全教室に無線LANを配備し、授業の中でいつでもどこでもICTツールを使える環境が整った。こうすることではじめて、教員たちは自分たちがもっとも優れているという授業計画を立案し、その中でICTツールを自在に活用できるようになった。パソコン教室の時代、1クラス分のタブレットPCの時代には、「ICTツールを使う授業」を特別枠で準備しなければならず、それは情報教育には役に立ったものの、通常の授業の質を高めるという点ではなかなか理想に近づけなかった。しかし、全教室無線LAN化によって、ここが解消され、本格的なICT活用がいま、進み始めている。

 

「校内は、アクセスポイント設置のおかげで自然とICT機器を授業で用いられるようになりました。これはとても大きなことです。あれ?つながらない?という不安がなくなったわけですから。あえて要望があるとすれば、校庭ではまだ無線LANが届かないんですね。これをなんとかしたい(笑)」

 

勿論、アクセスポイントによっては端末の接続台数により通信が遅くなる場合もある。シスコのアクセスポイントは各端末へバランスよく帯域を振り分ける機能がある為、授業中はストレスフリーでの通信が可能だ。

ただ、大熊町では校庭での体育の授業、あるいは生活科での花壇の観察など、そこでもICTツールを活用したい。これが今後の課題として残されている。

 

「また、遠距離の学校とビデオ通話などを利用して協働学習、共同授業などにも挑戦していきたい。強制ではなく、自然の流れの中で。ただし、これは相手あってのことですし、なかなか環境の整っている学校を見つけるのに苦労しています(笑)」

 

 大熊町立の両小学校は、困難な環境の中で県内や県外に転出する家庭も多く、児童数は減少、両校合わせても36名という小規模学校になってしまった。小規模であるがゆえに、生徒一人ひとりに目が届き、密度の高い教育ができるという“強み”は活かしながら、小規模学校であるがゆえに異なる価値観をもつ児童たちと交流する機会が少ないという“弱み”を解消するために、ICT環境を活用していこうとしている。

 

このような挑戦ができるのも、無線LAN導入時に最高水準の環境を整えたということが大きい。必要最小限の環境ではなく、余裕がある環境であるために、次々と新たな試みに挑戦していくことができるのだ。

DIS School Innovation Project時に提供された「Cisco Catalyst 3560-C シリーズ」「Cisco Aironet 1140  シリーズ」ほか、各種サーバ類はコンピュータ教室に置かれていた。

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