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教育ICT先進自治体レポート_平成28年度新地町ICT活用発表会 “教育もICTも、すべては学びのための道具である” 【後編】

2016年12月09日 記事

11月16日、福島県相馬郡新地町(しんちまち)教育委員会は、「平成28年度 新地町ICT活用発表会」を開催した。新地町の小・中学校で行われている教育ICTの現状と成果を報告する目的で、同時に各校での公開授業も行われた。そこでは、1人1台のタブレット、PC、電子黒板を使い、反転授業、ルーブリック評価という先進的な授業が展開されていた。

2016年11月15日新地町現在の様子。津波は町役場の目の前まで押し寄せた(撮影場所:新地町役場)

津波災害がきっかけとなった教育ICTへの挑戦

福島県相馬郡新地町(しんちまち)の3小学校では、1人1台のタブレットを配付し、反転授業、考えさせる授業を実践している。21世紀型授業を実践しているとして、全国各地からの視察、見学も多い。しかし、この新地町スタイルは、一朝一夕で出来上がったものではなかった。

 

新地町のICT教育との関わりは、平成22年に総務省の「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」に採択されたことから始まる。これは、地域で教育ICT化の人材育成をするというもので、新地町の3小学校には電子黒板、タブレット端末などが配備された。しかし、その直後、東日本大震災が発生し、新地町も3分の1が津波に飲み込まれる被災に遭った。このとき、配備された電子黒板とタブレットが思わぬ活躍をした。

 

「子どもたちも多くが一時避難所で生活するようになりました。被災後は危険な箇所も多く、子どもたちは学校と避難所になっている体育館を往復するだけの生活になりました。心のケアが大きな問題だと感じたとき、電子黒板とタブレットが役立ったのです」(新地町教育委員会、佐々木孝司教育長)

新地町教育委員会、佐々木孝司教育長

それは、電子黒板にテレビ放送を映す、タブレットでゲームを遊ばせるというものだった。いわば目的外使用ではあるが、夢中でICT機器で遊ぶ子どもたちの姿に大人たちは気づかされた。これは、学びと遊びの両方にとって強力な道具となる。

ステップを踏みながら段階的に発展させていく

教育ICTを強力に推進したのは、村山正之 前教育長だった。教育委員会トップの佐々木氏はこれを継承し、あらゆるところで「教育ICTは素晴らしい。一般予算を使ってでも強力に推進すべきだ」と説き続けた。

 

「でも、最初は教員もICT機器に戸惑いがあり、いろいろな試行錯誤がありました」と伊藤指導主事は言う。

新地町教育委員会、伊藤寛指導主事

伊藤指導主事は、教育ICTに必要な要素は「ICT機器」「ソフトウェア」「ICT支援員」の3つが不可欠であり、重要なのはこの3要素のバランスなのだと言う。ICT機器だけ立派でも、ソフトウェアがなく、ICT支援員がいなければ、教師は活用の仕方がわからず、戸惑うだけになってしまう。

 

この3要素のバランスを常に取り続け、当初は3要素が描く輪が小さなものでもかまわない。バランスの取れた輪ができたところで、この輪全体を大きくしていくことを考えながら、新地町はICT教育を進化させてきた。

文部科学省でも、ICT環境の整備を4つのステップに分けて考えている。

ステージ1:電子黒板+各教室PC1台+無線LAN

ステージ2:電子黒板+グループPC1台+無線LAN

ステージ3:電子黒板+学びのスタイルにより1人PC1台+無線LAN

ステージ4:電子黒板+1人PC1台+無線LAN

 

PCは小学校などの場合、もちろんタブレットでもかまわない。文科省では次期学習指導要領を実施するには全国の普通教室に最低ステージ3の環境が必要だとしている。「学びのスタイルにより1人PC1台」とは、いわゆる学年全体で1クラス分のPCを用意し、生徒に共用させるパターンだ。PCを利用する授業では、1人1台の環境が実現する。

 

新地町では、すでにステージ4を達成しているが、だからといって何もないところにいきなりステージ4の設備だけ整えても、教育ICTはうまく進まない。伊藤指導主事の言う「3要素の輪を大きくしていく」手法に従って、ステージ1から始め「ソフトウェア」と「ICT支援員」も整えながら、ステージ4を目指していく必要がある。

「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」参考資料より抜粋
「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」参考資料より抜粋

ICT環境整備は4ステップで考えられていて、文部科学省はステージ3の環境整備を全国で急いでいる。新地町はすでにステージ4に達している。

保護者に教育ICTの効果を実感してもらう重要性

このようなステージ4を目指す場合、新地町でもいまだに最大の課題となっているのが「予算」だ。ICT機器やソフトウェアは国の支援事業や実証事業の交付を利用して整えてきた。しかし、このような国の事業は、単年度または複数年度の期限付きで、ICT教育を継続していくには、自治体の予算を確保しなければならない。特に大きいのがICT支援員の人件費で、1学校に2名から3名は最低でも必要になる。これだけでも人件費は年間1000万円前後になってしまうのだ。

 

自治体予算を確保するためには、自治体職員や議会に働きかけを行い、教育ICTのよさを理解してもらう必要がある。しかし、理解してもらったからといって予算を承認してくれるとは限らない。自治体には、教育以外にもやらなければならない事業が山ほどあり、優先順位の高いものから承認していかざるを得ないからだ。

 

「議員は誰の声に一番耳を傾けるかというと、有権者、つまり住民です」

 

教育関係者にとってもっとも身近な住民とは保護者だ。伊藤指導主事は、まず保護者にICT教育の効果を実感してもらうことが重要だという。

 

「保護者がICT教育に理解を示してくれれば、その声は必ず議会や町行政に伝わります。そうなれば、ICT教育予算に理解が得られやすくなるのです」

 

ところが、新地町はこの「教育ICTへの保護者の理解」がまだ十分とはいえない状況で、ここが大きな課題になっている。

平成27年2月に、新地町では保護者に対する意識調査を行った。その中で「情報活用能力の育成は必要か」「学力向上に効果があったか」「学習意欲向上に効果があったか」という3つの問いに対する肯定的な回答はそれぞれ99%、98%、92%と驚異的に高いものだった。しかし、これは「効果的である」「どちらかといえば効果的である」という回答の合計で、「効果的である」という積極的肯定の回答だけに絞ると、それぞれ74%、45%、27%となる。つまり、保護者の皆さんは教育ICTの必要性は感じながらも、まだまだその効果が限定的にしか実感できていないということがわかる。

 

一方で、現場の教員、教育関係者たちは効果を確実に実感している。つまり、教育ICTの成果は出ているのに、それが保護者にうまく伝わっていないのだ。教育ICTの成果をどのようにして保護者に正しく伝え、理解してもらえるか。それが新地町の現在の大きな課題だ。

 

新地町の教育ICTへの挑戦には終わりがない。トップランナーでありながら、現在の課題を解決するために、教育委員会と現場の教員たちは今でも挑戦し続けている。

尚英中学校で使われていた機器の一部。左上からエプソン販売「プロジェクター/単焦点・レールスクリーン」、富士通「FMV-LIFEBOOK T730/B」とシスコ「TelePresence USBカメラ」、センサーかーを動かす授業で使われていたモーター駆動のセンサーカーとパーソナル3Dプリンタ「MakerBot Replicator」。

尚英中学校での公開授業。中学生にはキーボード入力の必要性から、ChromebookやタブレットPCなどを配備。また英語の授業では、遠隔地にいるネイティブ講師とビデオ通話で会話をする授業が行われ、海外の対話相手と話すことに慣れている。

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