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教育ICT先進自治体レポート_平成28年度新地町ICT活用発表会 “教育もICTも、すべては学びのための道具である” 【前編】

2016年12月07日 記事

11月16日、福島県相馬郡新地町(しんちまち)教育委員会は、「平成28年度 新地町ICT活用発表会」を開催した。新地町の小・中学校で行われている教育ICTの現状と成果を報告する目的で、同時に各校での公開授業も行われた。そこでは、1人1台のタブレット、PC、電子黒板を使い、反転授業、ルーブリック評価という先進的な授業が展開されていた。

反転授業+ルーブリック評価の21世紀型授業

福島県相馬郡新地町(しんちまち)は、福島県の東岸、通称・浜通りの北端に位置する人口8000人の小さな町だ。小学校は3校で児童数は約450人、中学校は1校で生徒数は約250人。教育関係者の間では、日本で最先端の教育ICTが行われていることで有名で、全国からひっきりなしに視察、見学者が訪れる。

 

1人1台のiPadやWindowsタブレットを導入し、全面的に反転授業を取り入れているだけでなく、ルーブリック評価も授業の中に取り入れている。ルーブリック評価とは、毎授業ごとにその日の達成基準を児童・生徒たちに提出させ、授業の終わりにはその基準を達成できたかどうかを子どもたち自身に評価させるというもの。児童・生徒たちが授業の目的を明確に認識することができ、自己評価することで達成感を得たり、自分の課題を抽出することができる。

 

まさに、“21世紀型”教育だが、成功のポイントは、「国や県から与えられたものではなく、新地町の教師、教育関係者が自ら考え、行動して築き上げていった」ところにある。

 

どのようにすれば教育効果が上がるのか。それを考え、さまざまな手法を試し、試行錯誤しながら、現在の形に到達している。だからこそ、視察に訪れる教育関係者が後を絶たないのだ。

新地町ではICT活用のグランドデザインを作成し、目指すべき「学び」の在り方を「個々の課題に応じた学び」「主体的・協働的な学び」「探究志向の学び」と示した。そして、それぞれの学びの過程で何ができるかを具体的に考えていくことで発展させてきた。また、新地町の特徴はルーブリック評価。授業の目標(A)と発展的目標(S)を生徒たちに提出させ、授業後にはそれを達成できたかどうかを評価させる。授業の目的が明確になり、子どもたちは達成感を感じることができる。

詳細はhttp://sip.dis-ex.jp/news.html?id=122

解法ではなく、考え方を理解させる“学び”

11月16日、新地町教育委員会はICT活用発表会を開催、公開授業とシンポジウムが行われ、全国から200人を有に超える参加者が集った。授業の様子はまさに21世紀型教育そのものだ。

 

たとえば、新地小学校6年生算数科の授業では、小さな三角形のタイルを大きな三角形の形に並べて、タイルの枚数を数えるという授業を行っていた。一辺に並べるタイルの数が3枚、4枚であれば、全体のタイルの数も数えることができるが、一辺のタイルの数が30枚、40枚となると数えることができなくなる。なんらかの法則性を見つけて、計算で求めるしかない。この法則を見つけることが、その授業の目的となり、さらに発展的目標としてその法則を他人に説明して理解させるという目標が設定された(このルーブリック評価の達成目標は、教員が設定するのではなく、児童自身が設定する)。

 

学習は前日の自宅からすでに始まっている。児童は自宅にタブレットを持ち帰っていて、そこに翌日の授業で使う課題が配信される。これを解くための予習型宿題をやっていく約束になっている。ただし、課題を解いて答えを出せばいいわけではない。どのように解いたか、その考え方をまとめてくることを求められる。

 

授業が始まると、まず課題の内容が説明され、その日のルーブリック評価の達成目標が議論される。児童の中から「解き方を説明できるようになる」、発展目標として「解き方を説明した相手に理解させる」などの目標が提出される。

 

教員は、各児童にどのように考えてきたかを発表させ、同じ解き方をしている児童同士をグループにし、異なる考え方を一つひとつ検討していく。どの解き方が正解ということはなく、さまざまな解き方がどのような考え方に基づいているのかを明らかにしていくのだ。それも教員が説明してしまうのではなく、児童に気づかせ、児童に説明させる。

 

児童たちがさまざまな解き方を理解したところで、発展的課題をタブレットに配信し、宿題とし、最後に授業目標が達成できたかどうかを児童たちに自己評価させて、授業が終わる。

新地小学校での公開授業の様子。児童たちは、すでに配信された課題を家庭でこなしてきている。答えを求めることではなく、どのような考え方をしたかが問われる。当日は、多くの見学者、メディアが授業見学をしていたが、それに気を取られる生徒が皆無だったことに驚かされた。

子どもが主役で、教員はファシリテーター

授業中、教員がもっとも多く口にする言葉は「なぜ?」「どうしてなの?」だ。解法スキルを身につけさせるのではなく、徹底してその背後にある考え方を考えさせる。子どもたちは45分の授業時間のほとんどで考えることが要求されるため、教科書に落書きをするような生徒はいない。常に頭をフル回転させている。

 

教員も大変だ。誤解を恐れずに言えば、従来の一斉授業方式は、教える側が脚本を書き、教える側が主役を演じて、教えられる側の観客(児童・生徒たち)に見せる授業だ。しかし、新地町の授業は児童・生徒たちが主役で、教員は舞台演出家にすぎない。子どもたちが自宅で考えてきた奇想天外な解法を拾い上げて、他の子どもにも考えさせる。全編アドリブで、臨機応変な授業の組み立てが求められる。

教員も常に頭をフル回転して、授業の舵取りをしなければならない。体力的にはヘトヘトになる授業だ。しかし、教員としての充実感は大きい。「教員を新陳代謝させるために、新しい教員も転入させたい。しかし教員は新地町の学校で働き、ICTを活用した教育を続けたいと言ってくれていて、嬉しい悲鳴です(笑)」と新地町教育委員会の伊藤寛指導主事は苦笑する。

 

 

新地町では「21世紀を生き抜く力を育てる授業」を目標にし、「個々の課題に応じた学び」(Adaptive Learning)、「主体的・協働的な学び」(Active Learning)、「探究志向の学び」(Deep Learning)」の3つを具体化することで、現在の授業スタイルを築いてきた。

 

 

このような21世紀型授業は、現在さまざまな学校でも取り入れられ始めているが、年に数時間程度の“特別授業”であることも多い。ところが、新地町の小中学校ではこれが日常なのだ。

 

「考えさせることが重要な単元に、時間を重点配分することはしていますが、文部科学省が要求する年間カリキュラムもきちんとこなしています」(伊藤)

 

しかし、完成形ではないとも言う。現場ではむしろ理想に向けた課題のほうが多く、教員、教育関係者は毎日「なぜ」「どうして?」と考えながら、日々、授業スタイルを改善し続けているからだと続ける。これだけ完成した授業なのに、と公開授業を見る限り感じるが、どのような課題が潜んでいるのだろうか。

新地町教育委員会、佐々木孝司教育長(右)。教育長は「ICT教育は一般財源を使ってでも継続すべきだという旨の議会総務文教常任委員会の声が「議会だより」に掲載された。新地町の教育関係者には大きな力となっている。」と話している。左は新地町教育委員会、伊藤寛指導主事。新地町ICT教育事業の実質的な担当者。各学校の校長、教頭、教員、さらには外部の有識者、民間企業と連携しながら、佐々木教育長の描いた学校教育はもちろん、復興の町づくりにも活用する夢を一つひとつ実現している。

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