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ICT活用、現場の声は?-School Innovation セミナー in 四国 たかまつ レポート【後編】-

2016年10月03日 記事

今回も、7月21日(木)に開催された「School Innovation セミナー in 四国 たかまつ」(日本教育情報化振興会 JAPET&CEC主催)のレポートをお届けする。後編では、ICT導入期の参考となる事例や、さまざまな立場から見た教育ICTの現状などについて、実践発表とパネルディスカッションの内容を紹介していく。

小学校でのICT活用:タブレットを使った活動で多様な表現を創出

 午後からは、徳島文理大学 人間生活学部 児童学科 准教授の林 向達(りん こうたつ)氏がコーディネーターを務め、四国におけるICT活用の実践発表が行われた。

徳島文理大学 人間生活学部 児童学科        准教授 林 向達氏
徳島文理大学 人間生活学部 児童学科        准教授 林 向達氏

林氏は、「四国では、フューチャースクール推進事業なども行われ、教育ICTの実践を積み重ねている先生や地域は少なくない。

しかし、全体的には様子を見ている(まだ全開ではない)といった印象。

実践事例や環境整備について知り、考える機会をもっと作っていく必要がある」と述べ、愛媛県松山市立三津浜小学校教諭 岸田知絵氏へバトンを渡した。

愛媛県松山市立三津浜小学校教諭            岸田 知絵氏
愛媛県松山市立三津浜小学校教諭            岸田 知絵氏

 

「使ってみようタブレット〜“all in one”を生かした表現活動」と題し、自身が担任している特別支援学級における取り組みについて紹介。

岸田教諭が考える“タブレットの良さ”は、「オールインワン」であることだという。

「支援学級だから、低学年だからできないと言われたくないという思いがあり、タブレットを使いこなしたいと考えた」(岸田氏)

肢体不自由クラスで3年生1名を担当しており、「丁寧な見取り、個に応じた指導の充実、信頼関係の構築といったメリットがある一方で、“子ども同士”という場面が少ないことに懸念もある。競争意識が芽生えにくい、折り合いをつけるといった経験ができないことに加え、“協働”する機会が圧倒的に少ない」と語る。

 

同校にタブレットが導入されたのは平成25年度。各校2台ずつ、翌年に5台が追加されるも、計7台では子どもが使う機会は乏しく、教師が教材提示をしたり、書き込みをしたり、持ち運べる利点を生かして集会活動に使ったりしていた。そして昨年冬、パソコン室のマシン40台がタブレットに入れ替わり、ようやく1人1台の環境が実現する。これ以降、多様な表現を創出する「表現ツール」として、協働的な学びを支えてくれる「思考ツール」として、タブレット活用の幅が広がっていく。

 

3年生の国語では「フォトポエム」に取り組んだ。タブレットならば画像の「取り込み」の手間が不要で、ローマ字がわからなくてもペンで文字を直接入力することができる。支援学級には繰り返しの作業が苦手な児童も多いので、デジタルですぐに書き直すことができるのも、根気よく課題に取り組むためには重要なポイントだ。また、「写真に絵を描き込む」という新たな手法を生徒自らが思いつき、思いがけずフォトレタッチ力の芽生えにつながったと語った。

重要なのはICTの使いどころと機器導入後の使い勝手を設計すること

 次に、徳島県徳島市加茂名南小学校 教諭 天野七奈子氏が登壇。「話し合い活動の充実を目指す」というテーマのもと、協働を支援するタブレットPCの活用方法について紹介した(前任校の足代小学校での実践例)。

 

足代小学校では、校内に無線LAN、各教室にインタラクティブホワイトボード、1人1台のタブレットPCを完備。「主体的な活動を促す」「説明する活動の補助とし、話し合いを円滑に進める」といったねらいに沿って、タブレットPCを活用した授業が行われた。

 

5年生の算数の「三角形の面積を求める公式を考える」という課題に対して、「一斉(フラッシュ型教材で既習事項を復習してから、学習課題を確認)」→「個別(スライドを複数用意し、三角形の面積の求め方を追う)」→「協働(ペアで考えを伝え合い、その内容を発表へ練り上げ、わかりやすく伝える工夫を行う)」→「一斉(ノートにまとめる)」というプロセスで授業を展開。

授業風景「ペアで紹介する」
授業風景「ペアで紹介する」
徳島県徳島市加茂名南小学校 教諭           天野 七奈子氏
徳島県徳島市加茂名南小学校 教諭           天野 七奈子氏

 

実践の成果については、「個別学習の自由度が上がった」「説明の苦手な児童でも、タブレットPCが説明をフォローし、抵抗感が低くなった」「考え方を共有しやすくなる(→話そう、聞こうという態度が養われた)」などの項目を挙げたほか、「最後にノートを書かせているが、ICTを活用していても、紙にきちんとまとめることが重要だ」と指摘した。

また、授業で活用するための環境としては、「『生徒がアクセスできる共有フォルダ』『パワーポイント(プレゼンを重視)』『協働で使えるソフト(コラボノート)』などを用意し、目的に合わせて活用している」というが、岸田教諭と同様に「ICTの使いどころを見極めることがもっとも大切」であると強調した。

最後に林氏は、「活用実践を支えるのに必要なのは、機器の選択よりも、導入後にどのように使うことができるか、という現場での使い勝手をデザインすることだ」と締めくくった。

実践者、教育委員会、企業、研究者の立場から見る教育ICTの現状

 プログラムの最後は、様々な立場の登壇者によるパネルディスカッションが行われ、放送大学 教授の中川一史氏がコーディネーターを務めた。

 

「国として今2020年までに1人1台のタブレットを目指しています。それは、PCルームから教室へICT機器が移っていくということです。現在でも実物投影機や電子黒板が学校に数台から教室に1台。アプリ・ソフトなどのデジタル教材も指導者用のものから学習者用のものへと予算のつき方が変わってきています。つまり、共有や移動というような使い方から個別であり常設であるという使い方になっていくということです。しかしながら、何が入るかということよりも入った後の運用が大事なわけです。そこがこの後、議題になってくると思います」

 

中川氏は現在の教育現場のICT機器の段階的な変化について冒頭で説明した。

 

ここからは、本セミナー全体のテーマでもある「ICTを活用したアクティブ・ラーニングとICT環境整備のポイント」について、各人の意見を紹介しておこう。

<パネルディスカッションのメンバー>

●コーディネーター

中川 一史氏(放送大学 教授)

●パネリスト

実践者       :増井 泰弘氏(丸亀市立郡家小学校 教諭)

教育委員会 :佐和 伸明氏(柏市教育委員会 学校教育課 統括リーダー)

事業者       :竹元 賢治氏(インテル株式会社 教育事業推進担当部長)

研究者       :林 向達氏(徳島文理大学 准教授)

まず、実践者の立場から増井泰弘教諭が登壇。タブレットを使って思考力・判断力・表現力をどのように学ばせるかというポイントに注力し、さまざまな取り組みを行っている。勤務する郡家小学校は、児童数784名、職員45名という大規模校である。今回は同校で実践した、興味深い事例を紹介してくれた。

実践事例:3年生図工「ここがお気に入り」(昨年より教科書に採用)

タブレットを使って写真を撮影・印刷し、切り抜いて貼るというアナログなコラージュワークの後に、自分の好きな場所に置いて、さらにデジタル撮影を行った。

 

実践事例:6年生社会「縄文時代のまとめ」

ホワイトボード1枚に調べたことをまとめ、発表する企画(「弥生時代」はタブレットでまとめてプレゼンする)。一見、ICTとは無関係なアナログな企画だが、紙やホワイトボードにしっかりとまとめておくというステップが重要で、タブレットに変わった時にスムーズに移行できる。

次は佐和伸明氏が、ICTを先導する教育委員会の立場より、柏市での取り組みを紹介。

 

「2020年以降の教育(次期学習指導要領)では、アクティブ・ラーニング、プログラミング学習といった用語が含まれているが、現場の教員たちにとっては、意味が曖昧で、バズワード的に捉えているかもしれない。これを“キーワード”として教育行政を進めていくためには、『ICTでアクティブ・ラーニング(主体的・対話的・深い学び)の実現が可能である』ということを指し示すしかない。Good Practiceを収集し、教員にモデルを示すのが行政の役割と考えている」(佐和氏)

 

教育委員会としては、「何をしていいかわからない」という状況をまずは解決するべきであり、それと並行して機器の整備を進めていかなければならないと語った。

 

事業者の立場で登壇したのは、インテル社の竹元賢治氏だ。教育関係者とは違う視点から、「ICTやアクティブ・ラーニングで幸せになれるのか?」という問いかけを行った。

 

竹元氏は同社の状況を例に取り、「グローバル企業では、さまざまな環境・状況の人々と対話をする必要がある。『コミュニケーション能力』は時代とともに変化するものであり、今はさらに複合的なスキル+主体的に動く力+ICTを利活用するスキルが求められている」と語った。

コーディネーターの中川氏から「培うべき力をどのように実効性のあるものとして落としていけるか?」と質問されると、「アクティブ・ラーニングを実践したから、いきなり主体的に動けるようになるわけではない。先生が目の前の子どもたちの能力を見極め、教科の狙いとは別に、学校が“どういう力をつけるべきか”という意識を持つことが大事なのではないか」と述べた。

 

最後に、先の実践発表でコーディネーターを務めた林 向達氏が再び登場し、研究者の立場から、さまざまなデータをもとに国内の状況についてまとめた。

 

「第2期教育振興基本計画による『3.6人/台』という目標や、『2020年にはタブレット1人1台』といった数字が踊っているが、目標はまったく達成されておらず、かなり無理をしないと実現できそうにもない。“コンピュータ教育元年”と言われる昭和60年以降、学校教育にかけられるお金の問題は苦しい状況が続いている」(林氏)

JAPET&CEC『ICT教育環境整備ハンドブック2015年版』より
JAPET&CEC『ICT教育環境整備ハンドブック2015年版』より

次期学習指導要領では、ICT整備・活用が前提となっているが「いろいろな事情によって実現するのが難しいのではないか」と懸念する。

 

また国際調査から見た現状については、「OECDの調査で『生徒が課題や学習にICTを使っているかどうか』を調べたところ、日本は残念な結果になっている(参加国平均が37.5%に対して、日本は9.9%)。意図して使わないのではなく、“ICTがないから(整備されていないから)使わない”という状況も見えてきた」。

 

では、どうしたらよいのか。研究者や政策関係者は「学校教育に必要な整備とは何か、専門的な視点から問い直して、示したり具現化する」、教員は「手持ちの教育資源を見直したり、アレンジすることから、今後求められる授業実践へ挑戦していく」など、それぞれができることに取り組んでいくべきであるという。

 

今回のセミナーでは、アクティブ・ラーニングを実践する前に、ICT環境を整備・運用するというプロセスでさまざまな障壁があることを示した。なかなか導入が進まない原因を今一度、見直すことは急務であるが、同時に、アクティブ・ラーニング、プログラミング教育といった新しい学習に際して、子どもたちにどのような能力を身に付けさせたいのか、という土台となる考え方をしっかりと共有することが必要だ。

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