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ICT教育の効果を最大化するための環境とは?-School Innovation セミナー in 四国 たかまつ レポート【前編】-

2016年09月26日 記事

7月21日(木)に開催された「School Innovation セミナー in 四国 たかまつ」(日本教育情報化振興会 JAPET&CEC主催。前編では、ICT環境の整備状況や国が先導する教育ICT政策について紹介。いま取り組むべきことは何なのか?

ICT環境整備の障壁となる、教育委員会が抱える7つの課題

 今年2月に開催された「School Innovation セミナー in 大阪」に続いて2回目となる今回のテーマは、「ICTを活用したアクティブ・ラーニングとICT環境整備のポイント」。教育ICTの動向や学校での環境整備のポイントについて、実践発表やパネルディスカッションなどが行われた。

 

まず、主催者挨拶として日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の小形日出夫氏が登壇し、都道府県別の学校におけるICT環境の整備状況について解説した。国は教育用コンピュータ1台あたりの生徒数「3.6人」という目標を掲げている。現状、全国平均は「6.4人/台」であるという。全国トップの設備を誇る佐賀県でも「約2.6人/台」だ。

日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)      小形 日出夫 氏
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)      小形 日出夫 氏

 

「いきなり“タブレットPCを1人1台”というのはハードルが高いので、まずは電子黒板、書画カメラ(実物投影機)とPC(デジタル教科書・教材含む)をそろえてほしいと、各自治体に依頼している。シンガポールやイギリスではすでに100%整備されている」(小形氏)

ICTを推進するためには段階的な計画が必要であり、機器の導入と並行して、教育目標や教員の指導力についても進化させる必要があるという。

同振興会ではこれまで、教員向けにはさまざまなセミナーを行なっているが、実は環境整備を進める上で障壁となるのは、多くの教育委員会が抱える課題にあると分析・指摘する。

平成27年度文部科学省事業「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」の調査結果
平成27年度文部科学省事業「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」の調査結果

そこで今年度より、全国地域ブロックごとに「セミナー&相談会」を実施したり、同会が主体となって国委嘱のアドバイザーなど有識者との連携を図るなど、教育委員会(地方自治体)支援事業が行われている。

現状に即した事例を広く提示することが急務

 次に、放送大学教授の中川一史氏が登壇し、本セミナーの主旨について説明した。

 

タブレット型コンピュータの普及台数は、平成26年3月からの1年間でほぼ倍増しているが、ほとんどがグループに1台、まれに1人1台(ただし使用できる学年は限定されている)という環境であるのが現状。BYODを実現し文具のように使える”環境には程遠い。

放送大学 教授 中川 一史 氏
放送大学 教授 中川 一史 氏

ICT環境の整備にはまだ時間がかかることや、教員のICT活用指導力の中でも「児童のICT活用を指導する能力」という項目が低迷している(文科省の調査より)ことを挙げ、「アクティブラーニングを実践するには、自分の考えを整理・共有・説明するための“思考を可視化するツール”としてICT活用が求められているが、グループに1台という環境ではどう使えばいいのか。いまの現状に即した事例を充実させなければならない」と語った。

そこで今回は、以下の3つのポイントについてさまざまな立場から発表・意見が展開された。

・授業活用 :具体事例(グッドプラクティス、陥りがちな活用)

・教員研修 :スキルアップ(操作研修、知識習得、授業活用)

・導入、運用:必須環境の把握、安定運用のノウハウ

ここからは、その具体的な内容を紹介していこう。

国の教育ICT政策の最前線

 いよいよセミナーの本題となり、自身も高松出身であるという総務省 情報流通行政局 情報通信利用促進課 課長の御厩 祐司氏が基調講演を行なった。

総務省 情報流通行政局                               情報通信利用促進課 課長 御厩 祐司氏
総務省 情報流通行政局                               情報通信利用促進課 課長 御厩 祐司氏

まず、ICTを教育において利活用するメリットとして、以下の“トリプルA”が挙げられる。これらを十分に発揮できるようサポートしていくのが総務省の役割だ。

(1)「Active」・・・主体的・対話的で深い学びを実現

(2)「Adaptive」・・・個に応じて学習を最適化

(3)「Assistive」for children・・・さまざまな学習上の困難を改善・克服

      「Assistive」for teacher・・・子どもと向き合う時間の確保・授業の質向上

これら3つのAの関係については、「Assistive」な効果がまず重要であり、その土台の上に「Active」や「Adaptive」な効果の発揮が期待される。

 このようにさまざまなメリットがありながら、国内では整備や利活用が進んでいない。教育用コンピュータ整備の格差は都道府県レベルでも最大で3倍超にまで拡大しており、深刻な問題となっている。さらに、先進県内、隣接自治体間でもその差は広がっており、極端な例では、隣り合う市区町村で校内LANや電子黒板の整備状況が100%と0%に分かれるケースも。

 

このような格差は、必ずしも財政力から生じているわけではない。財政力指数がトップレベルで地方交付税が不交付となっている市町村と、財政力指数が下位の市町村を比べると、むしろ後者の方が進んでいる状況も見られる。その一つの要因として、財政力が低い自治体の多くは立地が不便で、人口も急激に減少するなど、大きな障害を抱えており、「Assistive」なツールとしてのICTへの期待が高いということが挙げられる。

学校種で見ても、特別支援学校/支援学級で特に整備が進んでいるのは、そのためだ。

 

また、ICTの「Adaptive」な効果についても、高校を中心に認識が深まりつつあり、個別学習のツールとしての利活用が増えてきている。一方で、ICTの「Active」な効果については、十分に理解が進んでいないのが現状だ。

今後の政策の方向性を示す“天地人構想”とは?

 全国1,800弱ある教育委員会への調査で「1人1台のPC配備計画」を尋ねると、「計画あり」と答えた教育委員会は5%にも満たなかった。一番の障壁は「予算がない」、次に「活用方法がわからない」「ネットワークの運用に不安がある」という回答だった。

「障壁を克服するにはどのような情報が必要か」という問いには、「効果的な導入事例が知りたい」という回答が多く寄せられた。総務省ではこれらに応えるため、「天地人構想」として、今後の主な取組みを整理している。

・天(クラウド)           =「教育クラウド・プラットフォーム」の普及

・地(ネットワーク)     =基盤となる教育用Wi-Fiの整備支援

・人(サポート体制)   =学校現場へのアウトリーチ型の支援

 総務省では、平成26年より「教育クラウド・プラットフォーム」の実証実験を行っている。クラウドには、「教職員の負担を軽減しながら、低コストで導入・運用できる(Savable)」というメリットのほかに、「データを安全に保存・活用できる(Secure)」「学校・家庭等を円滑につなぐ(Seamless)」「児童生徒数や利用の増減等に即応できる(Scalable)」という、学校にとって(for school)、“4S”のメリットがある。

教育クラウド・プラットフォームの全体像
教育クラウド・プラットフォームの全体像

この「教育クラウド・プラットフォーム」については、マルチOS対応、ブラウザベースで使用するため、端末に高いスペックが必要なく、コストの削減が可能だ。

 

また、多種多様な教材コンテンツや協働学習ツールが利用できるほか、教育SNSにより、教員・生徒間の連絡や相談、課題の指示・提出等を効率的に行うことができる。さらに、これらコンテンツやSNSの学校・家庭等における利用データを可視化し、教育指導の充実や学級・学校経営の改善に効果的に活用することも可能だ。

 

一方で、民間事業者もこのようなプラットフォーム事業に参入してきており、総務省としては、これらの連携・協調と健全な競争を図りつつ、教職員や児童生徒の視点から、サービス水準の向上に取り組んでいる。

 

さらに、このような形でクラウドを活用していくためには、Wi-Fiをはじめとするネットワーク環境整備が不可欠であり、学校現場や首長を含めた地域の理解が必要だ。今後は、文科省や総務省だけでなく、官民を挙げた国民的な取組みが求められる。昨年2月に発足した『ICT CONNECT 21(みらいのまなび共創会議)』https://ictconnect21.jp/)は、そのためのオールジャパン体制の協議会だ。教育委員会には是非加入して、ともに教育の情報化に取り組んでいただきたい。

 

 以上の講演について、御厩氏は「四国には唯一新幹線が通っていないが、学校の中については、大都市以上の環境を実現することが十分可能だ」と述べ、四国における今後のICT整備と利活用の促進に期待を示し、締めくくった。

後編ではICTの実践活用とパネルディスカッションをレポートする。

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