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教育力がICTの可能性を最大化する_新地町教育委員会【中編】

2016年09月01日 記事

東日本大震災では甚大な被害に見舞われた、福島県新地町。震災以前よりICT活用プロジェクトに積極的に参加しており、全国的に見てもICT活用教育の先進エリアである。中編では、長年にわたり同町のICT推進事業に携わってきた、新地小学校の森 仁市校長に話を聞いた。

新地町立新地小学校 校長 森 仁市氏
新地町立新地小学校 校長 森 仁市氏

新地町における「教育」と「ICT」の歴史

 森 仁市校長が、本格的にICT推進事業に携わるようになったのは、同町の駒ケ嶺小学校での在任中に新地町の3小学校が「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」(平成22年)に採択され、3年間のプログラムへ参加したことに始まる。その後いったん新地町を離れたが、再び同町の福田小学校を経て、現在の新地小学校へは今年の4月に着任したばかりだ。「ICTの重要性を感じていたというよりも、子どもたちのプラスになる事ならとりあえずやってみよう、という気持ちでした」と、当時を振り返る。

 

新地町は、のんびりした風土に、大雨などの災害が少ない(先の震災までは津波が来ても被害はそれほど大きくなかった)など、誇れる点が多いと胸を張る。しかし、先頭を切って旗振り役となるような積極的な姿勢には欠け(資質を持ち合わせておらず)、時代に取り残されてしまうのではないか、という危機感もあった。

 

一方で、学制頒布前の明治5年、福島県内で最初に設立された共立の学校「観海堂」がつくられた土地柄、教育には熱心で、今も教育に充てる予算が他の町より多い。

「ICTを利活用して、教育で町おこしができたらいいなという思いはあります」

 

平成14年頃から、1 教室に 1 台の PC と大型テレビが学校に配備されたが、当時は、ソフトウェア環境が不十分だったため現場ではまったく使われず、使われていない PC を空き教室に集めて、なんとか活用しようと試みたこともあった。また平成 21 年頃、電子黒板が導入されたが、活用のための研修会を時々実施しても、忘れてしまって操作できないことが多く授業で活用するまでには至らなかった。

ICT支援員の積極活用がもたらしたこと

 それらの実体験をもとに、専門知識のある人材が必須と考え、「ICT支援員」を各学校に常駐させることになる(平成22年度のスタート時は各校3名、現在は2名)。ここから新地町のICT教育は、彼らを独自の方法で活用することで、大きく様変わりしていく。

 

もちろん震災後は、通常どおりの授業ができる状況ではなく、ICT支援員の多くは授業に直接関わらない作業も行なっていたという。しかし森校長は、「自分たちでまず機器や使えそうなフリーソフトを使ってみて、現在のICT環境でできることを提案してほしい」と依頼。

 

彼らは、ハード/ソフトウェアの設定・操作・メンテナンスといった、教員や生徒のサポートなどが一般的な業務だが、新地町のICT支援員は試行錯誤を重ね、教材を視覚的に見せたいといった具体的な依頼から、教員が授業でどのようにICTを活用したいのかという要望までを吸い上げてくれるようになった。

 

以前は、教員向けにICTのオペレーションについて研修会を行なっていたが、あまり効果が上がらなかったこともあり、ICT支援員が常駐するようになってからは中止。教員はわからないことを根気強く聞くことで自分に必要なことから覚えていき、ICT支援員は教員の“やりたい”を実現するために精一杯応える、という現在の関係性ができあがっていった。

ICT環境の選択とその結果

 ハードウェアについては22年から導入を進めてきたが、老朽化による故障が目立つようになり、今回のクラウドを活用した実証実験(総務省「先導的教育システム実証事業」ならびに文部科学省「先導的教育体制構築事業」)へ参加するにあたって、新たに検討を行なった。

 

■iPad

◯起動が速い

◯画面を触って大きくできる

☓サーバ上でのデータの管理が多少面倒である

 

■Windowsマシン

☓起動が遅い

☓バッテリーでの稼働時間が短い、機器が重い

◯ファイル管理がしやすい

 

上記のポイントについて検討を行った結果、27年に最新の「iPad Air2」を171台導入した。高価なため、人数分を購入することはできなかったが、カメラが内蔵されており、以前は有料だったアプリが標準装備されているなど、メリットは大きい。また、以前のプロジェクター方式から新型の65インチ液晶モニタの電子黒板も導入したことで、これまでできなかった複数人が同時に書き込むこともできるようになった。

新地町立新地小学校 校長 森 仁市氏
新地町立新地小学校 校長 森 仁市氏

一方、持ち帰り学習で活用できるソフトウェアや新たな学びを実践する上で必要になるコンテンツの整備も進めた。ドリル学習型コンテンツ「eライブラリ」、協働学習支援ツール「スクールタクト」、表現・発信支援ツール「ロイロノート」など、子どもたちが協力して、判断力・思考力を伸ばせるツールを活用。開発者を呼んで現場の声を吸い上げて使いやすさを追求したり、より効果的に活用するアイデアをアドバイザーである大学教授に指導してもらったりと積極的だ。

特に力を入れているのは ICT 機器を思考ツールとしても活用することで、この考えを進めるためにルーブリック評価についても取り入れている。 森校長は、「最新のデバイスを導入するべき」と言い切る。

ICTの使いどころは“教師力”にかかっている

 平成27年度の後半からiPadを持ち帰らせ、反転授業やドリル学習を行なっている。デバイスが全員分はないので、上学年を中心にローテーションで貸与するなど工夫をしながら実施している。

 

森校長が昨年度まで在籍していた新地町立福田小学校では、導入の部分を家庭学習によって行わせる導入型反転授業を取り入れることで、授業開始とともに話し合い活動をスタートでき、より多くの時間を演習やまとめに割くことができるようになったという。

 

また、教員はクラウドを通して、子どもたちの家庭学習の様子をリアルタイムで把握できるので、それに合わせた授業方法を選択することも可能になる。

 

「失敗してもいいから、面白い授業をやるように言ったんです」と森校長。実際に行なった事例を紹介してくれた。

 

「事前に課題を出しておいて、それに対して子どもたちが自宅で読み手を意識した文を考え書き込む。授業では協働学習支援ツールを使って、その文に、5 人まで『いいね』マーク をつけさせたんです。マークを付けた後は、なんで『いいね』なのかをみんなで考えて、 文を書き直すというものでした。後に別の研究会でワークショップとして展開されたこの 授業は、事後研究会では課題も見えてきましたが、チャレンジしたからこそわかったことがたくさんありました」

授業でICTを活用する際に、たとえば画像ですべてを見せすぎて子どもはわかったような気になり「図形」領域などは弱くなるのではという声がある。

「たとえ効率が悪くても、試行錯誤してわからせる必要がある場合もある。つまり、ICTの使いどころは今後も課題であり、決してゴールはありません。どこに使うかは、最後は“教師力”にかかっている。本気で関わって、勘どころがわかるまでやるしかないんです」

ICTのメリットとは?

 子どもたちの反応についても尋ねてみると、「ICT機器にうまく触れさせれば、確実に子どもは“伸びる”。ICTを使うことで、短時間のうちにより多くの人に自分の意見を見てもらうことができ、たくさんの人から意見をもらうことが可能になります。授業でなかなか自分の意見が言えない子も、自宅で十分に時間をかけて考えをまとめておくことで、発信する力をつけることにもつながる」といい、「教員も、自分にとってもメリットがある(=子どもたちの成長)ということがわかれば、頑張れるんです」と、双方にとってのメリットは大きい。

メリットといえばもう一つ。27年度の途中から利活用を始めたのが、ICTによる「校務支援」だ。まずは「指導要録」「通知票」「出席簿」などについて導入しているが、事務作業を減らし、その分、子どもたちと向き合う時間を確保することができる。

 

「例えば、教師による丸つけを減らし、自分で学習の成果を確認し、課題に対して自ら学ぶことのできる子どもの育成をねらったスタイルの授業に時間をかける。将来的にどんな仕事に就いても、自分で試行錯誤しながら学習できる力を身につけることができる。それが真の“学力”だと思います」

 

単にツールを持ち替えただけではない、真のICT教育の目指す姿がここにある。

 

本記事「後編」では、再び新地町教育委員会に、実証実験の成果や今後の課題、同町が目指す“新地町スタイル”などについて聞いている。

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