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ICTで伸ばす真のスキル_新地町教育委員会【前編】

2016年08月25日 記事

 東日本大震災では甚大な被害に見舞われた、福島県新地町。町役場の屋上から沿岸部を眺めると、大型車両が行き来し、現在も地面のかさ上げ工事などが進められている。今回、今なお懸命な復興作業が続くこの地を訪れたのは、新地町が全国的に見てもICT活用教育の先進エリアであるからだ。数々の実証事業に参加し、ICT活用を進めてきたこれまでの取り組みの背景には、新地町ならではの熱い思いがある。新地町教育委員会に話を聞いた。

新地町教育委員会 伊藤 指導主事、佐藤 課長(左から)
新地町教育委員会 伊藤 指導主事、佐藤 課長(左から)

震災以前よりICT活用プロジェクトに積極的に参加。先進エリアと呼ばれるまでに

 新地町では、平成21年度の「スクール・ニューディール」構想に始まり、平成22〜24年度「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」、平成23〜25年度「フューチャースクール推進事業」「学びのイノベーション事業」の採択を受け、町内にある全4つの小中学校に電子黒板やタブレットPC(一人1台)、デジタル教科書・教材、無線LAN環境、常駐のICT支援員などが整備されていった。

 

しかし、この間に発生した震災により、ICT化プロジェクトは中断を余儀なくされる。学校の被害は比較的少なく、設置したICT機器も無事ではあったが、授業再開の目処は立たない状況が続く。

 

そこでICT支援員を中心に、避難所における情報収集や掲示、レクリエーションのツールとして学校のICT機器を活用。被災者に安心や活気を与えるとともに、当時の状況がきっかけで、子どもたちにとって電子黒板やタブレットPCが身近な存在となったことは幸いだった。

 

「絆プロジェクトに採択され、これからICTを活用していこう、と考えていた矢先に震災が起こり、ゼロというよりはマイナスからのスタートでした」と語るのは、新地町教育委員会 指導主事の伊藤 寛氏。中学校での教員経験がある伊藤氏は、現場感覚を活かし、新地町のICTプロジェクトの指揮を執る。

 

新地町はさらに、平成26年度から総務省「先導的教育システム実証事業」ならびに文部科学省「先導的な教育体制構築事業」に参加し、クラウドを利用した新たな学びの在り方についての実証研究を進めている。今回は、2年目となる平成27年度の取り組みについて尋ねた。

新地町現在の様子。津波は町役場の目の前まで押し寄せた(撮影場所:新地町役場)
新地町現在の様子。津波は町役場の目の前まで押し寄せた(撮影場所:新地町役場)

子どもたちの目指す力を意識した、研究テーマと3つの「学び」

 平成27年度の新地町の研究テーマは、「ICTを活用して学びの質を高め、21世紀を生き抜く力を育てる授業」とした。全国学力調査などから現在の子どもたちの陥没点を探ると、「根拠を明確にして話す」「資料を読み取って理解する」「整理して話す」など、身に付けさせたい知識やスキルが浮き彫りになり、もちろん新地町でも同様だった。「この状況をICTの力で何とかしたい」という信念が、同町のICT活用教育の根幹となっている。

そして、以下の3つの「学び」を、先の研究テーマを実現する足がかりとした。

(1)個々の課題に応じた学び(=アダプティブラーニング)

一人一人の学習進度を可視化・把握し、最適化された「内容」や「方法」を提供することにより、基礎的・基本的な力を身に付ける

(2)主体的・協働的な学び(=アクティブラーニング)

能動的な学び(発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習など)によって、思考の活性化をうながす

(3)探究志向の学び(=ディープラーニング)

新たな課題に対して、これまでの知識や経験に発想力などの感性を加え、解決方法を発見する。将来的には、機器を活用する力と他者との協働を通して機器と人との調和によって 生み出された感動ある課題解決が行われることを目指す

新地町教育委員会 教育総務課 総務学校係 指導主事 兼 社会教育主事 伊藤 寛氏
新地町教育委員会 教育総務課 総務学校係 指導主事 兼 社会教育主事 伊藤 寛氏

「教育委員会が町全体のグランドデザインを明確にしたうえで、各学校にはそれぞれの教育目標/方針に基づく個性ある取り組みをお願いしています。私たちは裏方として、校長先生方の考える“目の前の子どもたちをどのような大人にするか”というビジョンを全力でフォローしています」(伊藤氏)

具体的には、

●タブレット端末の持ち帰りによる家庭学習の充実

●反転授業の実施と授業における活動時間の確保

●協働学習の実施

●AR(拡張現実)技術の活用

●ICTを活用した交流学習

●不登校児童への教育・学習支援

●学習に困難を抱える生徒の教育・学習支援

といった項目について、試行錯誤しながら取り組んでいった。

真の目的は「学力向上」にあらず?!

 新地町が目指すのは、単なる「学力の向上」にとどまらない。研究テーマとしても掲げられている「21世紀を生き抜く力を育てる」という部分に力点を置いている。なぜなら同町は、福島県の交通や地理的な中心地である郡山市や、政治・経済の中心である福島市から遠く、地理的ハンデがあるのだという。

 

都市部と比べて、情報格差が起こりうる環境ではあると思います。ですが、その差を埋めることができるのもICTなのではないかと。進学などで一度は町を離れる子どもたちが多いのですが、私たち教育委員会が関わることができるのは義務教育(中学3年生)までです。それ以降の子どもたちの姿を見通し、どこに行ってもどんな場面でも勝負できる子どもたちを育成する必要があると感じています」(伊藤氏)

 

2020年の大学入試改革では、思考力や表現力を問う新しい試験を導入することが発表されているが、新地町ではすでに「主体的・協働的な学び(=アクティブ・ラーニング)」を通して、21世紀型スキルの獲得に取り組んでいる。単に「学力」を伸ばすだけではない、“人間力”とでもいうべき「考える力」を学ぶべき土台が用意されている。今後ますますその重要性が増していくなか、このリードは地理的ハンデなどものともしない、相当な強みになるだろう。

 

本記事「中編」では、長年にわたり同町のICT推進事業に携わってきた、新地小学校の森 仁市校長に話を聞いている。「ICTの使いどころは“教師力”にかかっている」と語った、その真意とは?

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