DISの教育ICT総合サイト

大分県別府市立鶴見小学校の実践研究から見えてきたICT利活用の鍵【前編】

2016年06月13日 記事

別府市立鶴見小学校
別府市立鶴見小学校

 大分県別府市立鶴見小学校で、1年6ヵ月間のタブレットPC利活用を含む実践研究が行われた。児童の情報活用能力と教師のICT活用能力を高めるために同校が取り組んだ「校内の情報化推進」である。本稿では実践研究をコーディネートし、ファシリテーター役を務めたハイパーネットワーク社会研究所、渡辺律子副所長に話をうかがった。

民間が主体になった異色の取り組み

別府市鶴見小学校は、(平成27年12月1日現在)学級数18、児童数474、職員数41で、1年6カ月間の実践研究は同校の「学校情報化推進委員会」(校長、教頭、教務主任、情報化推進リーダー、各学年1名の学年活用リーダー)を中心に進められた。

 大分県別府市立鶴見小学校は平成27年10月から平成28年3月まで、タブレットPCを含むICT授業の実践研究を行った。このような取り組みは、国の実践事業に地方自治体や各学校が応募をして行われるのが通例だが、この実践は少々建てつけが異なる。各民間メーカー、サポート業者の協力を得て、機器・ソフトウェアの貸し出しはダイワボウ情報システム株式会社がハブとなり、活用支援全体では公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所(以下、ハイパー研)が主体となって行われた。タブレット型Windows PC41台を中心に、無線LAN機器、デジタル教材などが用意され、すでに学校に配備されている電子黒板などと合わせた活用を試みた。

実践研究の概念図。貸出機器・ソフトウェアには、東芝「Dynabook V714 K」41台をはじめ、さまざまな学習形態が普通教室で行える環境が提供された。
実践研究の概念図。貸出機器・ソフトウェアには、東芝「Dynabook V714 K」41台をはじめ、さまざまな学習形態が普通教室で行える環境が提供された。

普及フェーズでの課題を先取りして抽出する

 もう1つの大きな特徴が、「シナリオなしの実践研究」であったことだ。一般的な実践研究では、綿密な利活用シナリオが設定されることが多い。例えば、「タブレットを使って、グループで調査をし、プレゼン資料をつくり、発表させる」「メッセンジャー、テレビ通話を使って、遠隔地の学校と協働学習をする」などというシナリオが設定され、それに必要な機器、人材が供給される。
 

 これはこれで有意義なことだ。しかし、この手法には落とし穴も潜む。それは、関係者全員が与えられたシナリオを成功させるため、多少の負荷を省みず努力をしてしまうことだ。そのため、学校や自治体が抱えている根源的な問題が抽出されづらく、最悪の場合は「実践実験期間は頑張って行われたが、期間終了後は、関係者の負担が重くなりすぎ、継続実行されない」プロジェクトになる危険性がある。

 

そこで本取り組みでは、ICT利活用に向けての自治体、学校、教員の抱えている課題を綿密に抽出するために、あえて「シナリオなし」「縛りなし」で進めることとした。

公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所 渡辺 律子 副所長。学校における情報モラル教育、子どものネット利用(PC、携帯・ケータイ)利用についての研究活動を中心とし、小・中学校の保護者、教職員、中学・高校生徒に対して、普及啓発活動を行っている。大分県教育庁では教育情報化ファシリテーターとしての顔も持つ。
公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所 渡辺 律子 副所長。学校における情報モラル教育、子どものネット利用(PC、携帯・ケータイ)利用についての研究活動を中心とし、小・中学校の保護者、教職員、中学・高校生徒に対して、普及啓発活動を行っている。大分県教育庁では教育情報化ファシリテーターとしての顔も持つ。

「今回のプロジェクトは、実践研究というよりもトライアルといったほうが実態に近いかもしれません。1クラス1人1台が可能なように、41台のタブレットPCを用意しましたが、使い方は限定しませんでした。1人1台でもいいですし、グループに1台でもいい。先生だけが使うのでもいい。いっさい強制しないことを心がけたのです」

一般の実践研究では、定期的なレポート作成、最終日に公開授業というのがつきものだが、それもあえて設定しなかった。

「教員の方々にできるだけ負担をかけないようにしました。すべてが自由な中で、教員が主体になって活用を考える過程で、どんな課題がでてくるのか。それを発見したかったからです」

 今後、ICT利活用は「実践研究」の段階から「大規模導入」の段階に移っていくことになる。この段階では、実践研究のように機材と人材を潤沢に供給するということは難しくなっていく。言葉が適切ではないが、「機材だけ配って、利活用は現場任せ」に近い状況も危惧される。鶴見小学校での今回の“トライアル”は、まさにこの「大規模導入」時の課題を抽出する形になった。

「1人1台」ではなかった現実的な利活用

 この実践の評価は、教員へのアンケートとヒアリングで行われた。すると、シナリオありの実践研究では浮かび上がってこないであろうさまざまな課題が発見された。

 

例えば、当初は「児童1人1台」の理想的な環境でのICT授業が試みられたものの、翌年には大きく減少し、「グループに1台」という使われ方が増えていったのだ。また、教師15名に対するアンケートでも、1人1台で使用した教員は初年度12名だったものが、2年目には2名に減っている。

 

「1人1台を理想と考えるのであれば、翌年は後退したように見えるかもしれません。しかし、アンケート結果などから、むしろ、先生方が使いどころのコツを掴んできたのではないかと考えています」

 

 当初、理想とされる1人1台の環境が試みられたが、機器である以上、ネットワークなどのトラブルは避けられない。生徒全員が同時アクセスすると、回線容量の関係から表示が遅い、接続できないという問題が(現段階では)起きうる。

 

「このとき、教員1人では対応できないのが現実です」

 

教員はトラブル対応に追われることで、授業計画が破綻してしまう。アンケートでも、問題点として「機器の不具合」「ネットワークの不具合」を挙げる教員は多く、また大半の教員が「準備や片づけが負担」だと回答している。

 

2年目でもっとも多い使われ方は、「教師が使うのみ」(電子黒板などと連動する提示型学習)というもので、以下「グループ使用」「1人1台」と続く。これは教員のモチベーションが下がったとか、ICTは結局教育に不要だとかいう結論ではなく、トラブル対応、事前準備、授業計画との整合性を総合的に考えると、「教師のみがタブレットを使う」「グループに1台」という使い方が、もっとも現実的だということだと思われる。

 

「アンケートの数字だけを見ると、1人1台の使用例が2年目に減ってしまい、うまく使いこなせなかったというような結論を導きがちですが、記述式回答の部分はほとんどが肯定的なものです。教員の方々が、日常の授業のなかで使い続けていくにはどうしたらいいか、ということを考えていることがよく伝わります」

 

ただし、今回の実践研究では技術支援員がまったく配置されなかったことを考慮する必要もある。

 

「もし、教師とは別に技術支援をする人が常駐できる環境であれば、結果は違ってきたのかもしれません」

 

 1人1台という環境が理想的であるかどうかはまだ議論する必要があるが、もしそれが理想的であるとすれば、技術支援員の配備が必須であることが明らかになったと言えるだろう。仮に全国の小中学校に「1人1台」環境を実現するとすると、技術支援員は学校に1人では足りないことは明らかで、そうなると、今度は技術支援員の養成、そして雇用、そのための予算確保が必要になってくる。果たしてそれは現実的なことだろうか。

 

政府は2020年までに「1人1台」の目標を掲げていて、そのこと自体は素晴らしく、誰も反対はしない。しかし、「1人1台」ではない、「グループに1台」「教師のみの活用」というノウハウを蓄積していく必要も現時点ではある。

 

政府の「1人1台」の目標、その目標に沿った国の実践研究に対して、今回の鶴見小学校での“トライアル”は、補完的な役割を果たしたという点で、有意義なものになっている。

鶴見小学校におけるタブレットPCの活用事例では、学習の内容や状況に応じて「1人1台」以外の取り組みから有益な課題が見えてきた。
鶴見小学校におけるタブレットPCの活用事例では、学習の内容や状況に応じて「1人1台」以外の取り組みから有益な課題が見えてきた。

(取材・文/牧野武文)

ページトップに戻る