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小学校の全教員がタブレットPCを活用。「堺スタイル」が根づいた理由【前編】

2016年05月23日 記事

 2020年までに児童・生徒1人1台タブレットの活用。国が掲げた目標に戸惑いを拭えぬままICT機器を導入する自治体や学校も少なくない。そのような中、堺市の教育委員会では平成25年度から、まずは市内の全小学校の教員にタブレットを整備し授業に活用する施策を行っている。「堺スタイル」と呼ばれる施策だ。すでに市内に浸透し、タブレットは授業に欠かせないものになっている。

今回、堺市教育委員会教育センターを訪れ、関係者に話をうかがった。

(左から)堺市教育委員会教育センター 教育センター 情報教育グループ 小門 伸城氏、浦 嘉太郎氏、白川 嘉子氏
(左から)堺市教育委員会教育センター 教育センター 情報教育グループ 小門 伸城氏、浦 嘉太郎氏、白川 嘉子氏

先生がタブレットをイキイキと使いこなす

 例えば、習字の時間。タブレットを片手に、先生はある生徒が毛筆で描く字の軌跡をその場で撮影した。その映像は教室にある大型テレビで映し出される。再生された映像をクラスの子どもたちが見ながら、書き順が合っているか、適切に止めやハネができているかを確認する。映像には先生の書き込みも可能だ。

 

これは「堺スタイル」の一場面。大阪府内の第二の都市、堺市の教育委員会が小学校現場で進めるICT施策で、平成28年度から4年目を迎えている。堺市全域の全小学校で、教室で授業を行う教職員全員にタブレットを整備し、教員はタブレットの特性を活かして授業を行う。

タブレットを用いた授業の様子。使い方次第で、無駄な時間を減らして、机間指導の充実や子どもたちが発表する時間に充てられる
タブレットを用いた授業の様子。使い方次第で、無駄な時間を減らして、机間指導の充実や子どもたちが発表する時間に充てられる

 

 そもそも文部科学省は、新学習指導要領において、「情報教育」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」という3つの柱を進めている。なかでも、ICT機器導入を推進する先に見据えたイメージは、児童・生徒1人1台のタブレット活用だ。児童でなく先生が活用する、という点こそユニークであり合理的な堺スタイルの根本がある。

堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 浦 嘉太郎氏
堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 浦 嘉太郎氏

 

「平成24年ごろからスマートフォンやタブレットが一般的に普及しはじめてきました。手頃な価格帯、高性能で携帯できるので、教育現場でもタブレットの活用に注目が集まっていました。当時はすでに、堺市内の小学校は校内LANやノートPCの整備を行っていた時代です。そこで堺市では、タブレットの導入に踏み切ったわけです」(浦氏)

では、なぜ子どもたちにではなく教員だったのか? それは、当時の子どもたちにタブレットを渡しても、学習効果に疑問があったからだと浦氏は話す。

「タブレットは起動が早いしカメラ機能があり、携帯性にすぐれて無線でネット環境も確保可能だから、指導向きだとピンときました。言うまでもなく便利です。だからといって、子どもがうまく使いこなせるでしょうか。大した操作ができないまま、授業が終わっても意味はありません。大人でも慣れていないと使いこなせない代物を、ましてや小学生が、しかもクラス全員の子どもたちが平等に使いこなせるようにするのは至難の業です」(浦氏)

 

浦氏は教員経験があり、長く堺市教育委員会教育センターで情報教育グループに従事してきている。だからこそ、「教員が使えば役立つ」という発想と確信があったという。狙いは的中し、平成28年度現在、市内約2,000クラスに導入。全校の担任を持つ約1,400人の教員を対象に調査したデータでは、95.7%(平成27年6月)が1回以上タブレットを活用したという。

堺市教育委員会が、市内の小学校全担任に行った調査によると、平成27年2月時点で全授業時間に占めるタブレット利用率が約53%。調査した2日間で利用した回数が2回以上の利用者率も軒並み高く、市内全域で浸透していることがうかがえる

先生が迷わない、困らない仕組みを完全整備

 ここで、ざっと仕組みを紹介しよう。

堺市の小学校には、各教室に52型のテレビと画像転送機能付き無線アクセスポイントを完備。特に画像転送機能付き無線アクセスポイントは、タブレットに表示している画面を大型テレビに即反映するハブとなっている。堺市教育委員会は、教員が授業支援でタブレットを利用できることに完全に専念できるように、さまざまな技術的なハードルを解消し環境を整備した。

 

「ICTやらタブレットと聞いても、“面倒そう、便利なの?”と懐疑的な教員は出てきて当然です。操作できず授業が止まったらどうしよう‥‥さまざまに浮かぶ懸念点をすべて払拭せずして、教員のみなさんは使えない。堺市の大切な税金をお預かりしている立場として、確実で効果の高い使われ方をするために、環境整備は徹底しています。無線も混線が起きる設計になっていません。無線状況の確保も肝で、止まった、動かないでは許されないからです」(浦氏)

タブレットと大型テレビをつなぐのが、サイレックステクノロジー社製の画像転送機能付き無線アクセスポイント
タブレットと大型テレビをつなぐのが、サイレックステクノロジー社製の画像転送機能付き無線アクセスポイント

 

堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 小門 伸城氏
堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 小門 伸城氏

 

研修は、導入当初の初年度と2年目は全小学校と支援学校全担任、それ以降も新規採用者を対象に研修を行っている。

「電源を入れたらポータルサイトまですぐに遷移するという設計です。研修では主に想定する授業イメージを実演したりするのですが、使い方がわからない、という方も想定して進めるので、先生方から“もう操作方法はわかっているから、もっと具体的で突っ込んだ方法を解説してください”とご要望をいただくほどです」(小門氏)

こうした教員からの反応に、「堺スタイル」が追求している本質が感じられる。

教員がタブレットの操作だけに集中することなく、授業を展開できる形で環境を提供しているからこその反応だからだ。

 

AUTHOR/遠藤 義浩

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